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「おわりのないキス」川津望   一考   

 

 世にいうモダニズム詩が嫌いである、哀愁を感じられないからである。睦郎さんや幹郎さんの詩のように哀愁をさらに抽象化した作品ならなお結構だが、のっけから抽象的な作品はご遠慮願いたい。
 かつて玲はる名さんの詩 「愛すべき孤独」について当掲示板で触れた。あの時点で彼女の作品中、唯一哀愁に満ちた作品だったからである。
 今回は川津望さんの詩「おわりのないキス」である。感情の激しい起伏を情動とするか感情とするかだが、この詩の場合は性愛が底辺に流れている、よって情動と規定するのが正しいのでないだろうか。とはいえ、わたしは情緒もしくは情念との言葉を用いたい。
 彼女の最近の詩は身体のふるえや懼れが精神のそれと同化している。クロスオーバーのような中途半端な概念でなく、こころのふるえと身体のふるえが同一のものに昇華されている。いづれ、このような境地に至るだろうと思っていたが、やっとそのときがやって来た。問題はこれからの彼女の性愛である。いうまでもないことだが、性愛とは妄想の謂に他ならない。


「おわりのないキス」川津望


明日 ことばをすみずみまで忘れて

あなたを呼ぶことができなくなったとしても

複数のせかいを担う放浪者が

指先で水に描く音を

かつてあなたを作ったひとつの波だと聴きわけよう

もうここにはいないひとが

あなたと共にいたとき

その落とした影には

無数の行方がいりまじっていた

あなたが飲み込んだことばの中に

いつも隠れている夕日

それらの自死にも

永遠にも

歩くあなたの靴底が連れてきた泥にも

語ることによって

層をなす大地の

まなざしはしみこむのだ

(テルルとか沸石とか、いちど石になりたし。まっくらな地下で育つのです。)

そう欲するあなたの

つめたく暗いふるまいの根が

病人のわずらう片腕の温度とおなじく

在ったものの痛みに耐えているのならば

うしなわれた交感を生の只中におさめ

指のふしや水かきにたまった垢は残らず除き

星のぬくもりがあなたに刺さるように

わたしは厳格な園芸師となる

さあ 揺らして

枝にいっぱいの枯葉を

いつどんなときもあなたが

やすらいで眠ることができ

朝 窓をあけるほどの発見を生むために

わたしは散らばっていた旅路を

ひとつの場所にあつめよう

(いつか地上に露出して割れ、あまざらしになったら)

すこしの陽を浴びて

野のうえをながれ

かがやく胞子が

やがて如雨露から注がれるさだまらないものの

一瞬のかたちに応じてさざなみ立つ

そんざいするという暴力と

すこやかで感覚のない梢のあいだを

わたしが動く その響きは

手を加えられてもなお土にとって

音色のことなる透明な荷を

瞳の奥に抱えることなのだ

分けるものがない 

それはすべてがすべてとして苔むして

わたしやあなただったものを覆うこと

あなたの踏むさいごの地面になりたい

そしてそのあしに

おわりのないキスをしよう

 (2016-06-23)

 詩のブログはこちら。
 http://d.hatena.ne.jp/kujira-gensou/


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2016年09月25日 15:47に投稿された記事のページです。

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