北海道へ行くたびに走行速度が落ちてゆく。その結果が四輪でなく二輪、大型バイクでなく原チャリの一種、二種なのである。前項で林道について触れたが、林道にとどまらず、一般国道であっても、風景の種類は速度に比例して変化する。例えば、春先の原生花園に相応しい速度は時速5キロまでである。そこを大型バイクで50キロ(北海道は市内40キロ、郊外50キロ制限)で走ったとして何が咲いているのやら皆目見当もつかない。花が咲いているのかどうかすら分からない。なぜなら、花屋の花と違って原生花園のそれは一輪、一輪がとても小さいのである。
10キロには10キロの、50キロには50キロの景色と云うものがある。澁澤さんは新幹線を忌み嫌った。窓が開かないような電車で旅をする気にはならないと。身体が不自由になったのも理由のひとつだが、わたしは自転車で北海道を回られなかったことをいまなお後悔している。
時間が自由になるのは時間すなわち限界を意識しないで済む十代だけでないだろうか。二十歳になればパラサイトでいることは許されない、生計は自分で立てなければならない。要するに、働きはじめた人間が時間を手に入れるには、定年を待たなければならない。わたしが北海道でもっとも多く出逢ったのは、十代のチャリダーと定年退職を向かえて颯爽とカブに跨がる老人だった。
北海道には安価に宿泊できるユースホステル、ライダーハウス、とほ宿、無料のキャンプ場がいくらでもある。よって北海道は自転車旅行者が全国でもっとも多い。ただし、道東、道北では都市間が数十キロ以上離れてい、食糧の調達には難儀させられる。さらに、食料品店やガソリンスタンドは17時には閉まってしまう。補給は事前に綿密な計画をたてなければならない。