先日、一人なので小さなケーキを買ってきた。わたしが知るケーキとはベースをなすスポンジケーキで食べるところのものである。スポンジの組成は牛乳、バター、卵、砂糖、トレハロース、薄力粉、コーンスターチ、ラム酒等からなるが、生地の基本は鶏卵、砂糖、小麦粉である。等量配合が基本とされるが、パティスリーごとに微妙に異なり、その差がパティスリーもしくはパティシエの個性とされる。
このところ、ロールケーキのブームによってスポンジケーキの質が落ちた。ロールケーキも本来はスポンジケーキで食べるものなのだが、生クリームばかりが強調され、スポンジケーキは等閑視されてきた。その結果、素人が作る生クリームだらけのロールケーキが跋扈し、クリームを除けば食べられないような、およそケーキとは言い難い代物ばかりになった。
要するに、ロールケーキのブームがケーキそれ自体の衰退をもたらすのではないかとわたしは危惧していた。どうやらその通りになったようである。買ってきた小さなケーキのスポンジ生地には、こくも香りも味わいも何もない。然るべきパティスリーへ行かなければ、ショートケーキひとつ食べられなくなった。