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陰腹   一考   

 

 今回の入院でもっとも情けなかったのは14日の朝7時、手術後12時間目に立って体重を計ることだった。体重だけなら透析治療に使う体重計付きのベッドとか方法はいくらでもある。従って体重を計るのが目的ではない。立たせるのが目的である。腹筋が断絶したあと、12時間目に身体を立たせろとの無謀な仰せである。わたしはその12時間のあいだ、どう対処すれば立てるのか、そのことだけを考えていた。
 ベッドの上で身体を起こすだけでも激痛が走る。看護師に確認するも、みなさんが受ける最初の試練だと云う。昔、忍者武芸帳に陰腹というのがあった。人知れず切腹し、内臓が吹き出さないようにサラシで腹を固く巻いて闘うのである。
 わたしは12時間をかけて身体を起こす訓練からはじめた。わたしにも意地がある。やれと云われて出来ませんでは先祖に申し訳が立たぬ。高田藩城代家老の末裔である。
 陰腹は人形浄瑠璃や歌舞伎の世界に於ける演技だが、死を賭しての暴挙である。しかしここは病院、まさか立ち上がるくらいで死ぬわけもあるまい、とべそをかきながら云いきかせる。
 時間到来、男性の看護師が腕を輪っかのようにして仁王立ちになり、その中で立てという。覚悟を決めて立ち上がる。立ち上がろうとするも、腹に力が這入らないので崩れ落ちそうになる。身体が震えています、体重計が静止するまで我慢してください。なんとか我慢できたようである。
 済んでから、よくやりましたね、できないひとの方が多い、仮にできたにしても、朝から頑張って夕刻になるひとがほとんど、と聞かされた。
 どうしてあのような無茶が必要なのか、わたしには分からない。しかし、無茶であればこそ医学的には必要なのであろう。医師に尋ねても納得のいく応えは返ってこない。しかし、済んだことに腹は立てたくない。その手術から24日を経たいまごろ、痛みませんかと医師は訊く。痛いに決まっているだろう。


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2012年08月07日 10:23に投稿された記事のページです。

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