語感はひとそれぞれ、わたしにとって「頑張る」はほぼ置換不能、いささか白むが「絆」も許せる。許せないのは「癒す」と若干ニュアンスは異なるが「褒美」、最悪なのが「懐かしい」。
癒しの食品とか癒しの動植物、癒しの空間等々、実に多彩に用いられる。「湯治場で傷を癒す」ならまだしも、飢えや心の悩みなどを解消された日には堪ったものでない。「自分へのご褒美」は女性専用かと思っていたが、近頃は男性も用いるようである。それにしても気持ち悪い語法である。平気で遣うひとの神経を疑う。
懐かしび、懐かしぶ、懐かしむ、懐かしみ、これらは情動と同じく、気分や雰囲気をもたらす言葉であって、深い意味があるわけでない。これほど無意味かつ非論理的な言葉はなかろう。
かかる言葉を繁く用いるのは政治家、芸能人、芸人と決まっている。わたしがもっとも忌嫌う、媚や諂いを生業とする人々である。テレビを見ていると歌手や芸人が連れ出って東北を巡っている。その巡る方も、巡られる側も異口同音に「癒し」「癒された」と宣う。自己中心性、具体性、情緒性が顕著、まるで国をあげての退行現象である。(7月9日)