抗体検査に行ったのは十月三日、結果は一箇月後ということだったが、担当の看護師から電話があって十一月十四日以降の来院を命じられた。
辞書によれば、高等動物における生物学的自己性を確立・保全する生体反応を免疫というそうな。現在では、単に生体防御反応としてでなく、自己・非自己を認識する生物学的な一連のしくみとして把握されている、とある。抗体・免疫について話しだすとまるで哲学問答である。
この自己と非自己の垣根を跳び超え、生物学的自己性に錯覚を与え狂わせるのを免疫抑制剤と云うのかもしれない。意識するとしないとに関らず、生物学的に自己というものは確立されてある。
病院へ行くと役所同様、一考は消え去り、一孝のみが存在する。そのことと相俟ってわたしは既に錯覚の渦中にある。臓器移植と向かい合ってはじめて顕れる種類の自己もある。わたしが迷い続けていることなど、生物学的にはおよそ意味をなさない。