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七月十二日   一考   

 

 大泉女史来店、付き合いは四十年を越える。親友ならぬ心友。無理をしてウィスキーを三杯飲んでいたが、寿命を縮めることにならねばよいが。貴方は酒は断ったのと訊かれたが、この一年まったく飲んでいない。飲まずに生きてゆかれないでしょうとの問い掛けである。十代、二十代の頃の友はみんな人生を抛げていた。擲身そのものが文学だった。六十を過ぎても基本はなにひとつ変わらない。素面ではとても生きてゆかれない、四六時中杯を傾けていた。
 血管の硬化によって穿刺が不可能になり、次回の癌の摘出手術はできない。今生の別れを告げられたが、お互い癌で死ぬのかもしれぬ。共に医師から余命を宣告されながら生き延びている。
 彼女が大手術をしたとき、為事の残務処理を頼まれた。「とまる身も消えしも同じ露の世に心おくらむほどぞはかなき」後に残された身も亡き者も同じ、露の世に心を残すのは儚く虚しいとおもわばこそ引き受けた。
 二年を経て今度はわたしがよくもって二週間と劃られた。限定本を拵えてきたその為事に相応しい劃り方と思ったが、死ななかった。二十歳のときからの死に損ない、そうは簡単に死なせてくれないのかもしれぬ。
 贈られた一輪の薔薇、初対面からのこころの郷愁はいまなお消えず、いやさ深まるばかり。


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2011年08月16日 02:33に投稿された記事のページです。

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