「澤」の特集永田耕衣が上梓された。特集のみで二百四十七頁の大冊である。高橋睦郎と小澤實の対談を巻頭に安井浩司、仁平勝、鳴戸奈菜、橋本真理と並んで耕衣の云う「絶景」がここにもある。カラー四十頁に及ぶ耕衣書簡、遺墨は圧巻、よくぞこれだけのエッセイを蒐索、誌面を編まれたものと感心する。文中、間村俊一が「梅が笑う」と題してわたしのことを書いてくださっている。過日、装訂した「耕衣百句」と「しゃがむとまがり」についてのエッセイ、ありがたいことである。
耕衣の作品は非凡だったが、日常は三鬼のようにもしくは橋本真理のように非凡なものでなかった。そこのところを橋本真理がどのように料理するのかがわたしの着目点だった。趣味で対象を撰ぶ、言い換えれば偏愛といった要素を突き放し、彼女はそれに真向から応えてくださった。四十年前と比して彼女の立ち位置は不動、論法は冴え渡っている。蓬勃たる気に充ちている。耕衣はまた傑れた読み手を得た。
土肥あき子「遠くて近き」とのエッセイと同じ土肥あき子編になる「鹿火屋」石鼎選耕衣俳句一覧との労作が掲げられている。耕衣から幾度となく石鼎のはなしは聞かされている。興味津々、このような書誌学は大賛成である。大冊ゆえ、これから時間をかけた彷書三昧になる。〈文中敬称略〉
住所 東京都調布市深大寺東町8-17-4 原方 澤俳句会