利き酒で必要なのは甘味、苦味、酸味、塩味、うま味の五基本味で、辛味は痛覚ゆえ味覚には這入らない。ところが辛口の酒とよく云われる。辛味と辛口は一緒にできないが、それにしても酒の世界に於ける辛口とは灘の酒についてのみ云えることで、一般的でない。理由は当掲示板で何度も書いてきたので繰り返さない。
ここまで書いて掲示板を検索するも出てこない。よって簡単に繰り返す。灘は江戸へ酒を運ぶ港として栄えたが、それならいっそ蔵元を灘へ持ってきた方が便利と、伊丹と池田双方から徐々に蔵元が集まってきた。ひとつの街に味の異なる二種の地酒が同居することになった。そこで菊正宗や剣菱のような伊丹系列の酒を辛口、日本盛のような池田系列の酒を甘口と呼称するようになった。もともと酒はことごとくが地酒であって、地酒に甘辛はない。地酒はその地域固有の味を持っているだけである。ところが灘だけが二種類の地酒を内包するに至った、以上が甘辛二種の酒が存在した理由である。従って、灘以外の酒を甘口、辛口と識別するのはナンセンスである。
モルト・ウィスキーもスコットランドの地酒である、よって甘辛の概念は通用しない。余談だが、客の大半は辛口を所望するが、辛いと思われるであろうアイラやアイランズの酒を出すと決まって不味いという。そこでスペイサイドのストラスアイラやグレンキースのようなフルーティーなモルトを出すと旨いと仰言る。わたしの舌では新潟の酒は淡麗甘口ばかりである。ところが大半の客はあれが淡麗辛口だという。淡麗な辛口なんぞ存在するわけがないのだが、コマーシャルを見ていても、言葉だけが独善がりに躍っている。ピート香とヨード香が一緒くたにされているのと同じである。
五基本味の確認は味が薄く付いた溶液と無味の蒸留水を識別するところからはじめる。モルト・ウィスキーも蒸留所の違いにチャレンジする前に準備運動が必要である。五基本味の識別がしっかり出来るようになってからだとわたしは思うのだが。