主治医と会ってひとつ変わることがある、それは食欲が少しでも湧くことである。ちょっとした血液、血圧の変化が気になって、ひとりだと際限なく心細くなる。山崎医師が相手だと大したことないですよ、と虚勢を張る。この虚勢がわたしを元気づける。
元気付いたところで、魚のはなしである。過日、神戸の元町二丁目でベルマニアを営む村田啓二さんがいらした。ベルマニアはガラス・ジュエリー・オブジェを扱うミュージアムコレクションで、イタリアのガラス作家ブルーノ・アマディ、ベアトリス・ペリーニ のビスクドール、フランコ・デ・カルの金細工などが展示されている。
村田さんが来られるなり、カイワリのはなしになった。「日本近海には約五十種の鰺がいる、伊豆のカイワリと福井の寒鰤にとどめを刺すと思うのだがいかが」と書いたのを読まれたらしい。彼は瀬戸内の小振りのカイワリを食されたようで、シマアジとは違った食感を褒めていらした。カイワリも鰤と同じで、大きい方が脂が乗っていて旨い。
このところ、拙宅の近辺で珍しいものを見掛ける。石垣鯛、イサギ、ちりめんの刺身などを買ってきた。鯛よりチヌ、チヌより石鯛、石鯛より石垣鯛が旨い。ちりめんは東京でも生で食べるようになった。磯臭さの醍醐味は苦味にある。先日書いた鯛の子やウニをはじめ、ちりめんに至るまで独得の苦味を持つ。
江戸湾で採られたミルガイが売られていたが、価格は三千円。鮨屋だとおそらく一貫五千円は取られるであろう本ミルだった。こちらはさすがに買わなかったが、こんなものが近所のスーパーに並ぶようになった。どこが不景気なのだろうか。