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輸血1   一考   

 

 多くの人々のご好意によって命長らえた、感謝のしようもない。ひとりひとりのお名前も履歴もなにも知らない。ただ献血なさった方々のご厚志によってわたしの身体の中には1.6リットルの他人の血が流れている。同量の自前の血と頂戴した血とが同居することになった。これでわたしの命はわたし個人のものでなくなったともいえようか。
 血液は一気に失われると三分の一で死に至る。わたしの場合は徐々になので半分なくなってもなんとか生きている。ヘモグロビンの数値は4.5(平均値は13)、要するに血液の濃さからいうと三分の一になってしまった。失われた量ではなく、残留血液が三分の一なのである。
 某医師が巫山戯て「君は既に死んでいる」と云っていたが、二十四、五日の増田さんが見舞いに来てくださった辺りが、もっとも不安定だったらしい。意識を失うようなことがあればそれきりだったようである。

 二十八日に濃厚赤血球一単位(一単位とは含まれる構成分子らしく、量ではないらしいが、大旨200ml)二本の輸血を試みた。見てる間に脈搏は110から80にまで下がり、頭のなかで鳴り響いていた拍動から解放された。これでヘモグロビン値はおそらく6.0ぐらいへ上がったはず。通常は二単位を一時間で点滴するが、わたしの場合は三時間は掛けている。
 心臓が持ちこたえてくれたので、それ以降はもう少し大胆に輸血ができるようになった。それにしても、皮膚感覚をはじめ、全身のさまざまな感覚が急速に蘇ってゆく。
 二十九日は二単位を一本。輸血をはじめる前のヘモグロビン値はやはり6.0、脈搏は75まで下がる。二回目以降は腎臓をチェックしながらヘモグロビン値が10.0に届くまで輸血をつづける。そうすれば、恢復能力が自動的に機能するそうである。全快には一箇月半かかるらしい。ヘモグロビンの寿命は百二十日、この一箇月半がなにを意味するかはわたしにはさっぱり分からない。
 三十日の二単位の輸血もうまく行き、これでヘモグロビン値は10.0にもどるはずだった。ところが大腸から突然の下血、大腸に滞留していた術後の血が流れ出たのか、それとも血圧の変動のせいなのか、定かならず。
 下血と同時にわたしは三回目の禁食に這入った。医師もヘモグロビン値4.5での下血なら確実にショック死していたという(医師のいうところが正しければわたしは三、四度すでにショック死している)。
 急遽予定を組み替えて土曜日三十一日の午後は再度内視鏡検査、憩室なのかポリープなのか、出血箇所を特定し修復しなければならない。入院は延長である。
 点滴で用いる生理食塩水(スポーツドリンクと同内容のもので500mlを一日三本)を毎日打っている。他方、内視鏡検査ないしは手術で座薬をつかうことには懲りている。このあたりの話し合いを医師となんども持った。わたしは素人なので、ちゃんと説得していただければ従う。従いたくなるだけの言葉が欲しいだけなのである。

 今月に入ってから貧血で悩まされ続けたが、その一方で血液検査は五回も受けている。ときとうクリニックへ入院した十四日のヘモグロビン値は6.0、これでもひどい数値だが、今日明日命に関わる数値ではない。当然掛かり付けの医療機関で輸血するものとして退院した。ところが術後の出血がひどく、十六日の夜にはヘモグロビン値は既に5.0を切っていたものと思われる。
 ヘモグロビン値が4.5になっているのを医師が確認したのは二十七日だが、その検査は二十日の日になされている。問題は検査と確認のあいだに存在する一週間のタイムラグである。
 十八日以降二十七日までの十日間、わたしは死ぬ思いで唸っていた。否、死んでいても何の不思議もなかった。二十日の火曜日にはどうにも身体が動かないので、入院を直接希望したのだが、二十日の日に医師の手元にあった検査ペーパーは十三日付の検査結果だった。わたしは途方に暮れた。身体の調子ががここまで悪いのに施す術がないとは。
 二十七日の入院は本当の緊急入院だった。生命の危機を感じたとき、入院の是非を決めるのは患者であってほしいと願うことしきりである。
 追記
 この件に関しては、退院の日に院長と話し合った。血液に関しては院内検査なので必要とあればその日の内に結果は出る。慢性腎不全の患者は血圧が不安定である。このようなことを避けるためにこれからはシステムを改めるとの意見を得た。すぐれた病院がひとつ増えるのは嬉しいことである。


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2009年11月02日 22:17に投稿された記事のページです。

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