四月の十四日までひとりの生活になるようである。居なくなるひとは自宅周辺の桜の様子を写真で送れという。携帯メールの写真の送り方なんぞわたしには興味がない。
近隣の桜は一種類だが、駐車場から店までの途次にはいろんな桜が咲く。歩いて十五分ほどの道程なのだが、結構気に入っている。突き当たりに東京タワーがあって左は清水谷公園、右側にはホテルニューオータニがあって、ブルガリ、アルマーニ、ヴェルサーチ、パルジレリ、フェラガモ、ヴァレンティノ等々、わたしとはおよそ縁のない店舗が軒を並べている。桜が咲かなければ外国へでも旅した雰囲気に浸れる。
駐車場を利用するのは雨降りに限られるので、この路を歩くときは女ものの傘を差す。せめてもの気取りである。店舗は閉まっているが、ショーケースには明かりが点いている。「おまえがヴェルサーチか、おれはユニクロだ、文句あっか」つぶやきながらマヌカンと睨めっこする。フェンシングよろしく傘を振り回していて二度ほど職務質問を受けた。実体な警官はわたしを酔っぱらいと見定めたのであろうが、わたしがそんなことをするときは素面に決まっている。酔っ払っていれば寂しさから見境なく抱きしめる、おそらく這いつくばってガラス越しにマヌカンと愛を語らうに違いない。
土曜日はちはらさんのおかげで気持ちよく酔っ払った。しばらくは足がないので、新宿へは行かれなくなる。それを見越しての新宿行だった。感謝している。