ヒロユキさん来店、温野菜で頭を抱えているらしい。この場合の温野菜は茹でる、蒸すであって、焼く、煮る、炒めるは除外する。秘訣らしいものはないが、湯掻く時間を極端に短くすることと多量の氷水につけること。温野菜に禁物なのは余熱である。
いつぞや枝豆の湯掻き方を書いたが、沸騰して一分である。ホテルの温野菜はジャガイモ、ニンジン、ブロッコリーなどを別にすると、ほとんどは葉物である。種類は異なるがブロッコリーの葉もしばしば用いる。この場合は秒単位で時間差攻撃を掛ける。
東京ではサヤインゲンがよく使われるが、旨いと思ったことが一度もない。湯掻きすぎで芯までぐちゅっとしている。これはビアホールの枝豆も同様である。豆類は氷水につけないので湯掻く時間はさらに慎重にかつ短めにしなければならない。例えば、唐揚げは十秒から二十秒揚げて取り出し三十秒置く。その三十秒の間に余熱で芯まで火が入る。あとは仕上げで表面をからっと揚げるのである。
繰り返すが、レタスは十秒、キャベツは二十秒で十分である。業務用のガスの火力は強い、そして器は大きい。家庭用とは基本が異なることに留意すべし。それにしても、と思う、嬬恋村で温野菜は食べないだろう。衛生面での配慮なのだが、私はホテルの温野菜に興味がわかない。ただし、コンソメや白出汁を湯掻き汁に用いた温野菜は好きである。野菜が野菜でなくなり、新しい食べ物に変身するからである。
ヒロユキさんは仕事が続きそうだという。私にとってそれ以上の土産はない。ちょうど一箇月になろうか。嬬恋村の出世頭になってほしい。