ヒロユキさんの就職がほぼ決まった。就職先へランチでも食べに行こうかと思ったが、もっとも高価なコースだと一万六千円である。ディナーは二万五千円。とんでもない世界が目白の方にはあるそうな。
なにはともあれ、喜ばしいことである。いささか難産したが、よき紹介者に恵まれて理想的なかたちで決着がつきそうである。料理人として最初の就職先は生涯のあらましを決定づける。さればこそ、料理の基礎を学ぶになんら不足はない。三箇月はアルバイト、一年は契約社員、正社員になるのは一年三箇月後になるが奮起していただきたい。
総料理長との面接を済ませ、金曜日が総支配人との最終面接らしいが、手に付着したブドウ球菌の検査があるといわれたのには驚いた。私にはそうした儀式めいた面談の機会がまったくなかった。なかったことを是とべきか、非とすべきか私には分からない。ただ、生きる過程で必要が生じた最小限の許可証、修了証、免許の取得はその都度済ませてきた。
正社員になってから五年はなにがあってもしがみ付いてほしい。その間は自分の人生を捨ててほしい。そうでないと応用が利かないからである。十年と云いたいところだが、料理の世界はセンスである。センスが秀でていれば十年の要はない。あとは武者修行を繰り返す方が良いに決まっている。いずれにせよ、自らの腕と相談しながら決めるに越したことはない。修行がはじまれば人はひとりになる。決して連まずに耐えていただきたい。