黒豆枝豆や生山椒の仕入れで親しくしている篠山から丹波の冬の風物詩、ぼたん鍋の案内があった。「今年の秋は木の実が豊作だったようで、猪にとってもとても良い秋だったようです。ここにきて冷え込みもありさぞかし脂のノリもいい具合になっているのでは・・・」との文章が添えられてあった。
明石では猪や猪豚をよく食した。松坂牛のもとは神戸牛、神戸牛のもとは淡路牛、そして淡路は猪豚の飼育でも有名である。猪は篠山と静岡の天城山、岐阜の郡上が三大名産地だが、なかでも丹波篠山産は美味とされる。「猪肉の良し悪しを見分けるのは爪の磨耗度を見る」と云われる。起伏に富んだ険しい地形で生れ、雑木林や竹藪に体をぶつけながら走り回ることで良質の猪が育つ。また猪は大食漢、たらふく食べた木の実の香りが身に滲みこんでいる。
「静々に五徳にすゑにけり薬食」と詠んだのは蕪村、「シシ食えば古傷がうずく」は古傷がうずくほど精が強いの意。肉食が禁じられた江戸時代にも山鯨と称され、寒さ厳しい冬の季節の栄養補給源として山窩に食べられた。
ぼたん鍋にはだし昆布、たまご、こんにゃく、やき豆腐、白菜、ねぎ、えのき、菊菜、ごぼう、生椎茸、山の芋などが用いられる。要点は薬味の山椒の粉を三十分ほど前に猪肉に振りかけること。白味噌、赤味噌、味醂、酒に粉山椒を加えた合わせ味噌を昆布だしで薄める。猪肉は他の肉と違い、煮れば煮るほど柔らかくなる。というよりは少々煮詰まる方がおいしくいただける。煮詰まると脂身が縮れてぼたんの花のようになるところからきたぼたん鍋である。
「雪がチラチラ丹波の宿に ししが飛び込むぼたん鍋」はデカンショ節の一節。さて、今年はですぺらでぼたん鍋の会を催そうかと思っている。