ヒロユキさんが自動二輪の免許を取得した。取得だと簡単だが、しゅうとくと書くと修得、拾得、収得、習得など意味合いが異なってくる。私ならさしずめ宿徳が免許を拾得したとなるのだが、このような冗談は適切でない。
彼は拙宅の近隣の教習所へ通っていたので、いつでも見に行けたのだが、最後の卒業検定まで捨て置いた。理由は彼が二十歳なので、最短コースであっても、なんら問題は生じないと思っていたからである。だが、卒業検定はさすがに気になったので見学に行った。
三十八人中、大型が三名と中型が六名失格、一名がスラロームでパイロンと接触、他はいずれもが一本橋と波状路での脱輪である。彼は中型なので波状路は免除される。従って、苦手課題は一本橋であろう。実は、落下、足付きさえしなければ受かるということを伝えに行ったのである。規定時間は七秒以上だが、例えそれを切っても一秒あたりマイナス五点で済む、それと比して脱輪はその場で失格、ニーグリップの不良はマイナス十点である。
彼の走行になんら問題はなく、一本橋での所要時間は十秒、大型でも受かる時間だった。車線変更が速すぎたようだが、マイナス特五点というのがあって、違反が一回までなら減点なし、二回以上重ねると遡っての減点となる。従って、彼は満点で通過したはずである。それを確認して私は帰宅した。
ただ、先達として気になったことがある。彼の着座位置が後方に過ぎる。それが理由で両腕を張っている。大型だとマイナス十点になる。教習所のバイクはステップは前方へ、ハンドル位置は高くかつ後方へ設定している筈である。傾斜ポジションすなわち前傾姿勢が格好いいと思っているのだろうが、油蝉がバイクに止まっているように見える。レーサーレプリカのつもりでネイキッドに乗るのは困りものである。注意しなくては。
受かったと戻ってきた彼を連れて鮨を買ってくる。今日はですぺらを休み、拙宅のバイクの名義変更と免許証の更新に嬬恋村へ帰った。東京で乗るのだが、嬬恋ナンバーがいいと彼は云う。彼の無邪気なアイデンティティをいささか羨ましく思った。