まづは何より水見舞を申し上げます。水ならぬ酒を飲めば金時の火事見舞になるわたくしが水見舞を申し上げても何のお気休めにもなりますまいが、一日も早い復旧を祈りをります。
最近ではめつきり少なくなつたと思ひますが、かつてフランスにあつたトイレのひとつに、足場がまるで洪水のごとくになるものがありました。何かですでにご存じではありませうが、簡単に申し上げれば、ドアを開けると、イェテイの足跡よろしく、もちろんあれほどは大きくはなく、足を乗せれば靴の方がはみ出すくらゐの大きさの、床面からは浮き彫りのごとくわづかにせり上がつた足型様のものふたつ。おづおづと片足づつその上に乗せ、苦心惨憺の末、用を足します。さて、流す段になつて、天井から下つた鎖を引くと、逃げる間もあらばこそ、ものすごい勢ひで水が流れ込み、思はず溺れさうな錯覚にとらはれ、せめて片足をかはるがはる持ち上げて水難を避けようとしますが、水は撥ね、渦を巻いて床一面を覆つたまま。何世紀にも感じられる時間(実は数十秒なのでせうが)が過ぎるとそれだけで疲労困憊。飛びはねた水で裾を濡らして、惨めな思ひでドアを開けて出てくるといふありさま。トイレに就いてはいつも悩まされるフランスではありました。
かの國に比べればはるかに細やかなまほろばのこの國。水仙などを床に生けた手水場はいつそ奥ゆかしいかもしれません。
冗談はともあれ、怨念にかかはりなく、技術上の問題ですぐに解決なさいますやうに。