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オフィシャル・ボトルとはなんぞや   一考   

 

 かつて「オフィシャル・ボトル」と題する文章を書いた。私もごくたまに遣う、遣いながら奇妙な言葉だと思う。「オフィシャル・ボトル」は和製英語で、正確にはディスティラリー・ボトルもしくは蒸留所元詰めになる。ところで、ボトリング設備を自前で持っている蒸留所はグレンフィディックとスプリングバンク、それとブルイックラディとキルホーマンの四社のみ。要するに他の蒸留所のボトリング(註一)を引き受けているのはスプリングバンクのみということになる。従って、多くの蒸留所はブローカーやボトラーの設備を借りてボトリングしている。「蒸留所元詰め」は言葉の持つ意味において矛盾している。
 ウィスキーの世界はブローカーを中心に動いている。ブローカーはニュー・スピリッツの段階で蒸留所からウィスキーを買い取ってメーカーへ卸したりボトラーへ転売する。グレンフィディックやグレンモーレンジのように、すべてをシングル・モルトとして出荷。現在、一切の樽売りはしていない蒸留所もある。そのような蒸留所を除いて、熟成庫やボトリング設備を持つ必要はどこにもなかった。モルト・ウィスキーをモルト・ウィスキーとして楽しむ人々は少なく、一部のブローカー兼ボトラー、ケイデンヘッド社とゴードン&マクファイル社が細々とボトルを頒していたに過ぎなかった。われわれがモルト・ウィスキーを広く嗜むようになったのは90年代に入ってからである。ウィスキーの歴史は古いが、モルト・ウィスキーの歴史ははじまったばかりである。もっか最先端の飲み物といえようか。
 メーカー(註二)すなわちブレンド・ウィスキーを作っているところは代理店を持つ。ブレンド・ウィスキーにおける正規品、並行輸入品の概念はそこから生まれる。代理店経由が正規品で、それ以外が並行輸入品となる。モルト・ウィスキーの場合も、ヴーグ・クリコジャパンが扱うアードベッグとグレンモーレンジ、サントリーが扱うボウモア、ラフロイグ、マッカラン、スキャパ等は正規品と並行輸入品の双方が存在する。それらは数少ない例外であって、ブレンド・ウィスキーとは異なり、正規品の方が安価な場合がある。
 「オフィシャル・ボトル」との言葉を誰が遣い出したのかは知らない。ただ、罪作りな言葉を造ったものである。この言葉には正規品とのイメージが深く刻まれているように思う。日本人は正規とかオフィシャルという言葉に弱い。最近ではオフィシャル・ボトルが正規品で、ボトラーズ・ボトルが並行輸入品と思い込んでいる方すらいる。ボトラーズ・ボトルとオフィシャル・ボトルの違いについてはホームページの「インディペンデント・ボトラーズについて」で詳述しているのでここでは繰り返さない。
 ただ、オフィシャル・ボトルがはじまったのとボトラーが雨後の筍のように増えた時期は共に90年代に入ってからのことである。そして、ディスティラリー・ボトルを頒していない蒸留所も多く存在する。アルタナベーン、インペリアル、キャパドニック、グレントファース、グレンバーギ、コンヴァルモア、ダラス・ドゥー、ブレイヴァル、グレン・アギー、グレン・カダム、ノース・ポート等がそれで、他にもグレンキースのように94年から2000年までと短命に終わったディスティラリー・ボトルを入れると果てがなくなる。
 オフィシャル・ボトルが任意の蒸留所のウィスキーの基準になるとよく聞かされる。しかし、おおよその目安にはなれ、香味の基準にはならない。オフィシャル・ボトルは大量生産なので、味は平均化される、ただし、ウィスキーの香味は樽の数だけ存在する。ボトラーがシングル・カスクにこだわる理由はその樽の数だけ存在する異なった香味を異なったものとして楽しもうというのが趣旨だからである。過去を振り返っても、ボトラーズ・ボトルがオフィシャル・ボトルの香味に先行し、蒸留所のブレンダーに影響を与え続けた例は枚挙に遑がない。
 どうやら、ここにも日本人特有の短絡的思考が垣間見られるようである。ディスティラリー・ボトルをいくら飲んでもウィスキーは分からない。2008年5月17日に「ボトラーとラベラー」で紹介したイアン・マクロード社、ゴードン&マクファイル社、シグナトリー社、ダグラス・レイン社、ダンカン・テイラー社の五社がこれから生き残るボトラーと云われている。モルト・ウィスキーを知りたい人はまずボトラーズ・ボトルから賞味していただきたい。
 以上が武蔵屋の竹内元さんと話した内容である。今後オフィシャル・ボトルを私は遣わない。人のことはどうでもよい、私はディスティラリー・ボトルを用いる。

(註一)樽から瓶詰めして販売することをボトリングという。従って、ボトリングしているからといってボトリング設備を持っているとは限らない。
 スプリングバンク蒸留所とボトラーのケイデンヘッド社は同資本の会社、同じくブルイックラディ蒸留所とボトラーのマーレイ・マクデヴィッド社も同資本。
(註二)通常、蒸留所をメーカーとは云わない。メーカーとはジョニー・ウォーカー、バランタイン、シーバス、ベル、ホワイトホースのようなブレンデッド・ウィスキーを販売する会社を指す。貯蔵庫、ブレンディング、ボトリング設備を持ち、原酒確保のため傘下に蒸留所を抱えたり、直接蒸留所を設営することもある。わが国とはシステムが異なる点に留意。


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2008年08月19日 20:18に投稿された記事のページです。

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