ちはらさんから新潟土産に宮尾酒造の酒を頂戴した。好みの本醸造タイプである。純米酒は燗に向かないので、もっぱらアル添を飲むように心掛けている。彼女が私の嗜好をご存じだとは思わないので、まったくの偶然なのであろう。
それにしても、飲み屋の主人に酒を付け届けするとはいい玉である。臆する色もないとはこのことで、彼女のアナーキーぶりが窺い知られる。健康のためにとの触込だが、ひとの健康をおもんぱかって酒を贈る慕何がどこにいるかと言いたくなる。本気なら珍説、そこを詳しくご教示いただきたいものである。
冗談はさておき、彼女の酒の飲み方は豪胆である。銘柄は口にせず、ボトラーも問わず、こういう味、ああいう味の酒を飲ませろと指示なさる。銘柄を指示しなければならないとの常識を端から棄てている。なけなしの知識なんぞ、なんの役にも立たないことを知っている。
長年バーテンをしていると、個々の注文の仕方でそのひとの性格がそれとなく窺える。彼女の場合は、好奇心がジーパンを履いてですぺらを闊歩している。
空虚と無垢の混淆体が好奇心だと私は思っている。掃除機またはブロッティング‐ペーパーのようなものを想像していただきたい。そして好奇心とは無遠慮なものであらねばならない。彼女はそのあたりの呼吸を心得ている。
同席なさっていた四戸さんの注文で狼狽える私に「一考さんて、可愛いいんだ」、揚句に頭を数度撫でられた。どうやら呑まれているのは酒ではなく、店主なのかもしれぬ。
このところ、書き込みによる誤解が続いている。誤解(五階)は六階へ、六階は七階へ、が私の作法ゆえ気にもしていないが、念のために言っておく。以上はすべてほめ言葉である。