六月九日を一応の千秋楽にしたいと思います。楽日にはモルト・ウィスキーを提供しますので、会費は八千円。飲まれない方は三千円に致します。この日は私は厨房に籠りっきりになると思います。従って、受付とカウンターを引き受けてくださる有志を募りたく思います。どうかよろしくお願い致します。
一応と書いたのは複雑な心境で、西明石のですぺらでは「尽く書を信ずれば則ち書無きに如かず」をモットーにしていました。従って「当店は酒は提供しますが話題は一切提供致しません。他者の生き方に何等の興味なく、況や人生訓など聴きたくもないのです。会話、談話の悉くを拒否させて頂きます。巷の叫喚ならびに喧噪の店内持ち込みを禁じます」との貼り紙をしていました。
赤坂におけるですぺらはモルト・ウィスキーの専門店でした。それ故、モルトとお通しのみの営業は可能なかぎり続けたいと思っています。安価なウィスキーは置きません。拙宅から秘蔵のウィスキーを供出します。最後の一週間はモルト・ウィスキーの話題だけでですぺらを填めたいと思っているのです。それが私のですぺらへの唯一の御礼であり別れの辞なのです。