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同業者ここにありとは   高遠弘美   

 

 われ竊かに開業せる裏稼業に「水脈占師」radiesthe´sisteあり。シャルトル大聖堂の広場の一角に並ぶ土産物屋に容貌魁偉の怪しき翁あり。われ東方より来ると知るや、かの翁、われを店の奥に招き入れて云ふに、「大聖堂を造りし折、地下に水脈ありといふ噂ながれ、人々大いに恐れき。そこにあらはれし水脈占師、懐より出したる水晶の玉にて水脈を探り、人々に教へたり。大聖堂建立はかの水脈占師ありてこそはじめて叶ひし偉業なり。われかの水脈占師の子孫にして、今の世にその術をつたへる者なり。爾、東方より来る怪しき風采の者にして、われら一族と相通ずるものあり。爾にその気あらば、われ水脈占師の秘儀を教へむ」と。
 老師のもとに修業せること三年。やうやくにしてわれ、仏語に訳されし書物によりてradiesthe´sieの秘法を拳々服膺せしのち、自在に水脈占師の術を操るに至れり。そは水晶の玉を紐にて吊し、心中無にして玉の動きを見るなり。もし左に旋回せば、悪しき水、地中に隠れたり。右に回れば良き水なり。病のもと、食物の可否もそれにて知らざるはなく、われ竊に水脈占師の看板を掲げしものなり。西班牙の巨匠ビクトル・エリセの名作「エル・スール」に登場せし父親もradiesthe´sisteなること、あるいは人の知るらむ。
 人、ときに思ひがけず同業者に出会ふものなり。赤坂みすぢ通りの暗渠を知るかの渡邊氏(うぢ)一考殿、昼は辣腕編集者にして無類の読書家、夜の裏稼業に酒肆を営む大人とは知りをりしも、まさかradiesthe´sisteの業をもせし怪人とは思ひもよらず。今さらにして誼を覚えしがゆゑに、わが裏稼業の一端をここに記す。丁亥弥生晦日。


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2007年03月31日 10:29に投稿された記事のページです。

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