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山崎医師来店、幹郎さんと一緒になって病について死について語り合う。幹郎さんはずいぶんと山崎医師を気に入ったようだが、然もありなんと思う。医師はわたしを街の不良親父と見立てている、よって気に入らなければ診療拒否も有り得ると考える。しかるに診察に来るということは、どうにもならなくなってなんらの扶けを求めている、そういう時は必要最小限の手立てを講ずる。さらなる診察が必要であっても、そこから先の判断は本人に委ねる。
このようなことを書くと、まるで医師としての務めを投げ出しているかのようだが、決してそうではない。彼は間違いなく名医である、と同時に不良の扱いにも精通しているのである。わたしが「あと一年生きようと十年生きようと、そのような瑣末なことはどうでもよい」と書くとき、その真意を深く諒解する能力を彼は併せ持っている。
聞いたはなしだが、スウェーデンでは子と親が同居することはない。親はしかるべき歳になると施設に這入る。施設の看護師は食事を提供するが、摂取行動は手伝わない、腕組みをして黙止するのみ。食べないという行為も食べられないという行為も均しく摂取拒否と判断される。要するにそこで老人を待っているのは餓死である。雑宝蔵経を源流とする「更級の姨捨山」や「木の股年」を想起していただければ結構だが、わが国の老人介護の有り様とはまったく異なる。その根本には個というものへの認識の差違が横たわっている。
先日、癌を患っている友人に事後報告したところ、その友は抗癌剤の投与を止めたという。最期だけは自らの意志でと云っていたが、われら不良の最期はそうでなければならない。
主治医と呼んでいるが、山崎さんは泌尿器科の医師である、にもかかわらず、骨折の修理は自分でするからレントゲンだけ撮ってくれ、痔の発作が起きたときも緊急外来で深夜に押し掛けて痛みだけ除去してくれ、と無茶を承知で専門外のことをお願いしてきた。要は全人的に信頼しているのである。山崎さんは医師であると同時に個としての倫理感を持っている。その振幅は尋常な距離ではない。迷いを迷いとして容認するにいかほどのエネルギーが必要かをわたしは知っている。わたしは複雑な存在が大好きである。かかる医師と知り合えたことに深く感謝したい。
「一日の摂取量は1800キロカロリー、蛋白は上限が45グラム、塩分は5グラム、カリウムは1800ミリグラム」と前項で書いた。蕎麦であれ、饂飩であれ、サンドイッチであれ、丼ものであれ、お好み焼きであれ、外食すれば一食でいずれかの数値が超えてしまう。第一に白米が食べられなくなったのは辛い、味のないものを味気なく食べ続けている。昨日も浦和の病院からの帰り、腹拵えをしなくては仕事にならないと思ったが外食はできない、遠回りをして拙宅経由でですぺらへ行く。
店のお通しでナトリウムを使っていないものはない。スモーク類でなら焼き豚に直接塩は用いていない、しかしタレにはふんだんにナトリウムやカリウムが入っている。いかに簡単な料理とはいえ、味見せずに出すことはできない。もしも味見をすれば、拙宅での食事制限がさらにきついものになる。フードに関して迷い続けている理由である。松友さんが註文なさるピッザやウインナなら味見せずに出せる。この件に関しては何かしらの方策が必要である。
余談ながら、ウインナなら一本でわたしの一日の許容量を充たす。ヒデキさんがサラミソーセージを持ち込まれていたが、二枚食べればお終い、他には終日なにも食べられなくなってしまう。当分は持ち込み歓迎である。
クレアチニンと尿素窒素を除いて血液の状態はずいぶんと改善された、降圧剤のせいで血圧も正常値に戻っている。医師のいうことを聞かないわたしだが、だからこそ食事療法だけは守りたいと思っている。
昨日は駐車場から店までの一キロを松葉杖なしで歩いた。三十分を要したが、いずれ歩かなければならない。山崎医師が骨はまだついていないよと仰有っていたが、それを気にしていては何もできない。どうせ劃られた命である、ある程度の勝手はさせていただく。
二十六日ぶりの営業再開である、終日店は混み合った、ご来店のみなさんに感謝したい。十一日は通院の日だが、はじめて屋外での歩行訓練、うまくいきそうに思えたのだが、やはり長時間になると疲れる、帰りは疲労困憊だった。初日はちはらさんの協力を得たが、今日からは素天堂さんがお手伝いしてくださるとか、忝なく思う。ふたり併せて百二十四歳、よろしくお願いする。
整理のついたものから掲載してゆく。ゆっくりだが、どうかよろしく。
アードベッグ10年※900円
46度のディスティラリー・ボトル。
ノン・チル・フィルターを謳い、往年のアードベッグを意識して造られたファースト・エディション。ボトリングは2000年初頭。
フロア・モルティングが最後に行われたのは1976年から77年にかけてであり、80年代の閉鎖期間の後はポート・エレンが供給する麦芽を用う。木の幹をかじるようなスモーキー・フレーバは望むべくもないが、アードベッグの先行きへの不安を解消させるにたる出来映え。特にヘビーにピートを焚き込んだ麦芽を用いたモルト・ウィスキーの登場には、今暫くの猶予が必要。
スモークヘッド(イアン・マクロード)900円
43度。中身はアードベッグ。
ベリーヤングと比してアルコール度数は低いが、その分リーズナブル。カスクのコンディションもよく、ベリーヤングと同じコンセプトで造られたのでそれなりに美味。
アードベッグ '90(ゴードン&マクファイル) 1000円
コニッサーズ・チョイスの11年もの、40度。
前回頒布された78年蒸留の21年ものが終売になり、本品に取って代わった。同じコニッサーズ・チョイスで、73、74、75、76、78、79、90、95、96年のヴィンテージがある。
アードベッグ '90(ダグラス・マクギボン)1300円
プロヴァナンスの一本。バーボン・カスクの10年もの、43度。
頗るユニークにして、かつ巧緻な味わいのアードベッグ。微かなバニラ香を持つミディアム・ボディ。口に含むと甘いフローラルな味わい。ただし、ラスト・ノートは正真のアードベッグ。G.M社の加水タイプと比してはるかにソルティー、長く続くフィニッシュは申し分なし。
フローラルな味わいの理由はポート・エレンのモルトを使用したこと。かかるボトルがコレクターズ・アイテムになるのなら異議はない。
アードベッグ・オールモスト・ゼア '98※ 1300円
ディスティラリー・ボトルの9年もの、54.1度のカスク・ストレングス。
04年発売のベリー・ヤング、06年発売のスティルヤングに続いて07年に頒された。同じ蒸留年のウィスキー熟成の過程を愉しむとのコンセプトでボトリング。アードベッグ10年への最終のボトルである。
ピートオイル、ビターチョコレート、松の実、樺タールが複雑にミックスした香り。前二者とは異なって噛み応えと香味に深みあり、一年の差とは思われない。
アードベッグ・スティルヤング '98※1400円
ディスティラリー・ボトルの8年もの、56.2度のカスク・ストレングス。
04年発売のベリー・ヤングに続いて06年に発売。同じ蒸留年のウィスキー熟成の過程を愉しむとのコンセプトでボトリング。本品についで08年にオールモストゼアが発売された。他にコミッティー・ヴァージョンやウィスキー・フェア用に異なるヴィンテージのものがボトリングされている。ソフトでクリーミーな甘さの出現。
アードベッグ・ベリーヤング '98※ 1400円
ディスティラリー・ボトルの6年もの、58.3度のカスク・ストレングス。
前年のコミッティー会員向けボトルの一般市場向けの商品。2004年8月ボトリング、ファーストフィルのバーボン樽で熟成。限定20,000本。翌2005年にも別ロットのベリーヤングが頒されている。若々しくフレッシュで刺激的。
アードベッグ・ウーガダール※1400円
ディスティラリー・ボトルのカスク・ストレングス、54.2度。
2003年12月発売。93年バーボン樽熟成のアードベッグをベースに、75年、76年のシェリー樽熟成原酒を加える。ウーガダールとは仕込み用水を採取する泉の名。
バーベキューソースやスペアリブにつけるソースのような味を持つ。
アードベッグ・ルネッサンス '98※ 1600円
ディスティラリー・ボトルの10年もの、55.9度のカスク・ストレングス。
1998年に蒸留された原酒が熟成される過程をボトリングした一連の流れの到達点として、2008年7月25日に発売。
トロピカルフルーツの果汁、バニラやホットシナモンのスパイス、パイナップルの風味、芳しい花のキャラクター。ピートオイルとがぶつかりあって共存し、力強さを感じさせる。ピーティーな熟成の極み。
アードベッグ・アリー・ナム・ビースト '90※1800円
バーボン・カスクの16年もの、46度のディスティラリー・ボトル。
クリーミーでスモーキーなフレーバーの中に感じるフェンネルや松の実のキャラクター。ピート・オイルの粘り気のあるファッジ・ソースの霧雨。
アードベッグ '00(インプレッシブ)1800円
6年もの、62.7度のカスク・ストレングス。
昔日の荒々しさが残る、ボトラー版ベリー・ヤング。言い換えれば、不良のアードベッグ。インプレッシヴ・カスクはダンカン・テイラー社のボトル。美味。
アードベッグ '90(マーレイ・マクデヴィッド)1800円
バーボン樽の9年もの、46度のシングル・カスク。
他に同じヴィンテージの8年もの、91年の9年ものと11年ものも頒されている。
アードベッグ '91(スコッチ・モルト・セールス)2000円
ディスティラリー・コレクションの一本。バーボン樽の10年もの、60.1度のカスク・ストレングスにしてシングル・カスク。
ボトリングはグラスゴーのマルコム・プライド社。リリースはスコッチ・モルト・セールス社。
アードベッグ '93(ダグラス・レイン)2000円
オールド・モルト・カスクの一本。10年もの、50.0度のプリファード・ストレングス。限定348本のシングル・カスク。
G.M社のボトルと比して、アルコール度数がもたらすインパクトあり。マクギボンのボトルが持つフローラルな香りはなく、頑強なまでの塩味。よりオーソドックスな味わい。
アードベッグ '78(ゴードン&マクファイル)2000円
コニッサーズ・チョイスの一本。21年もの、40度。
アードベッグ '91(ゴードン&マクファイル)2000円
スピリッツ・オブ・スコットランドの一本。13年もの、52.6度のカスク・ストレングス。318本のリミテッド・エディション。
G.M社のアードベッグを侮ってはいけない。このようなとんでもない隠し球が出てくる。ラベルに記載されたスペイモルト・ウィスキー・ディスティラリー社はゴードン&マクファイル社の子会社。
店主が呑んだスピリッツ・オブ・スコットランドのアードベッグは、78年・53.9度・バーボン・バレル、90年・58.4度、90年・56.4度、91年・55.6度、91年・52.6度・リフィール・シェリー、91年・52.5度・リフィール・シェリー、93年・54.4度、93年・56.2度・シェリー・バット、94年・55.0度・バーボン・ホグス、94年・55.8度・バーボン・ホグスの10種類。他にもあろうかと思われるが、ダグラス・レイン社のボトルと共に、最良のアードベッグである。
アードベッグ17年※2000円
40度のディスティラリー・ボトル。
80年代初頭に蒸留所が閉鎖される直前のモルトを用いる。シグナトリー社の74年のボトルと比してスモーキー・フレーバーは控え目に、ヨード香は抑えられている。相応分、甘味を伴うフレーバーに優れ、喉ごしは淡くまろやか。
アードベッグ '74(シグナトリー)2300円
23年もの、43度。3樽、限定610本のリミテッド・エディション。他に同じヴィンテージでカスクの異なるものあり。
同じヴィンテージのカスク・ストレングスには一歩譲るが、当ボトルもまた、こしかたのアードベッグを語るに欠かせぬ一本として記憶されるは必定。
スティルベリーヤング・アイラモルト '00(リンブルグ)2300円
リフィール・シェリーバットの7年もの、59.1度のカスク・ストレングス。
ドイツの南西部で催されるリンブルグ・ウイスキー・フェスティバルのボトル。さほどスモーキーでなく、やわらかさの中に、ほんのりスモーク。シェリーバットの影響か、マイルドな口当たり。ディスティラリー・ボトルと比してすこぶる美味。
アードベッグ '90※ 2500円
ファーストフィル・バーボンの13年もの、55.0度のカスク・ストレングス。日本向け1140本のディスティラリー・ボトル。
ウーガダールの騒々しい香味とは異なり、こくバランス共に申し分なし。
アードベッグ '75※2500円
23年もの、43度のディスティラリー・ボトル。
74〜75年は殊更に美味にして稀少。本品は98年発売のグレンモーレンジ社二回目のヴィンテージ・ボトル。
微かな甘味を含んだ磯の香。しっとりと落ち着いたやや骨太の酒質。
極端な煙臭さ、いつまでも残るスモーキー・フレーバー。
お見舞い金を頂戴した方のために在庫一本の貴重なウィスキーを開栓する。みなさんがお求めのアイラモルトである。事前に声をかけていただければ幸い。お一人様二杯まででお願いする。
今月のサービス品はポート・エレン75年蒸留、24年もの、43度、オーク樽、402本のリミテッド・エディション、シグナトリー社のミレニアム・エディションの一本である。売価は1600円、在庫は二本、売り切れるまでのサービス品である。
これからウィスキーの値は公表する。書き直した寡多録は順次掲載してゆく。他店と比較していただければ幸甚。より安い店があってもわたしは関与しない。
ザ・カスク・オブ・ヤマザキ '93(サントリー)※ 1900円
14年もの、62.0度のカスク・ストレングス。539本のリミテッド・エディション。
サントリー初のヘヴィリー・ピーテッド・モルト。熟成はパンチョン樽。カスク由来の甘味とスモーキーな香り、のびやかなフィニッシュ。
同時発売にシェリー・バット熟成のものがある。追って08年3月、白州のヘヴィリー・ピーテッドとボタコルタ熟成の二種がボトリングされる。
ザ・カスク・オブ・ハクシュウ '93(サントリー)※1800円
14年もの、58.0度のカスク・ストレングス。232本のリミテッド・エディション。樽違いあり。
白州のヘヴィリーピーテッド・モルト。ウッドタイプはホワイト・オーク、カスクタイプはバーボン樽を組み替えたホグスヘッド230リットルを用いる。
ロットが少ないので製麦業者(モルトスター)は決まっていないが、おそらくシンプソンと思われる。
山崎ほどの意外性はなく、やはり白州だと思わせる品のよさを持つ。青林檎のキャラクター。極めてドライ、なんの抵抗もなく、喉の奥にストンと落ちてゆく。この透明感は日本のウィスキーに総じて言えることであって、間違いなく水のせい。
ザ・カスク・オブ・ハクシュウ '93(サントリー)※ 1800円
14年もの、60.0度のカスク・ストレングス。571本のリミテッド・エディション。
白州のシェリーモルト。ウッドタイプはスパニッシュ・オーク、カスクタイプは480リットルのボタ・コルタ。
ボタ・コルタはバット樽と容量は同じだが寸が短い、逆に直径が大きいのである。従ってウィスキーとカスクの触れ合う面積が小さい。それだけ熟成がゆっくりなされる。十四年にしてはシェリー特有の渋味が少ない。甘酸っぱさが濃厚で微かな苦みがあり、フィニッシュはしっかりと伸びる。
ハクシュウ・ヘヴィリーピート(サントリー)※1800円
48度。
白州を構成するさまざまな原酒のなかから数種類のヘヴィリーピートをヴァッティング。国内外を併せて6000本のリミテッド・エディション。ザ・カスク・オブ・ハクシュウ '93のヘヴィリーピーテッド・モルトより美味いのは不思議。
アズ・ウィ・ゲット・イット8年(イアン・マクロード)1400円
オーク・カスクの8年もの、59.0度のカスク・ストレングス。中味はタリスカー。
アズ・ウィ・ゲット・イットの商標をイアン・マクロード社が買収、当初はスペイサイドのモルトをボトリングしていたが、最近はアイラ・モルト、それもラガヴーリンを専門にボトリングしている。
マクローズ '89(ハンジアティシィ)1400円
04年のボトリング。バーボン・カスクの14年もの。384本のリミテッド・エディション。中味はタリスカー。
ハンジアティシィはイアン・マクロードの独向け。他に85年蒸留の18年もの348本、86年蒸留の17年もの264本あり。
ヘブリディーズ '89(キングスバリー)1600円
02年のボトリング、18年もの。ホグスヘッドの46度。300本のリミテッド・エディション。中味はタリスカー。
タリスカー 57 ノース※1800円
57ノースという名前は、蒸留所のある緯度(北緯57度)と、イングリッシュプルーフ100度(57%)にちなんだもの。ヨーロッパの空港と北欧のフェリー船内専売の限定品。
タリスカー '92(ジャン・ボワイエ)2400円
07年のボトリング、15年もの。ワンショット・コレクションの一本、58.7度のカスク・ストレングス。
ハイランドパーク '78(サマローリ)2000円
78年蒸留、95年ボトリング。オーク・カスクの17年もの。45度、360本のリミテッド・エディション。
サマローリ社は1968年創業のイタリアブレア市にある酒商。スプリングバンク蒸留所、ボトラーのケイデンヘッド社とその子会社ダッシーズ社と太いパイプを持ち、オリジナルのヴァテッド・モルトも頒している。
同じイタリアの酒商インター・トレード社についてひとこと。インタートレード社は伊太利亜リミニ市のボトラー。オーナーのナディ・フィオリは当地に於ける業界の草分け。継続的にボトリングはしていないが、斬新なラベルとクオリティーの高さは特筆もの。生産量の少なさとカリスマ性によって、大半はコレクターズ・アイテムとなっている。同社のウィスキーはサマローリ社同様、檻が多く含まれるのが特徴。ディスティラリー・ボトルでは味わえない個々の樽の稟質、即ち微妙な持ち味を愉しめる。
ハイランドパーク '78(ボトラーズ)2600円
シェリー・カスクの18年もの、57.6度のカスク・ストレングス。
ザ・ボトラーズ社は1994年、エディンバラにて設立。同じエディンバラのジェームズ・マッカーサー社と共に、閉鎖された蒸留所の珍しいモルトを取り扱うことで識られる。コニャックを想わせる撫で肩の丸瓶とシンプルなラベルが特徴。同社の商品の大半はディスティラリー・コンディション。それ故、面白味には欠けるが、破綻のないのが取り柄。
アードベッグ・スーパーノヴァ※1800円
58.9度のディスティラリー・ボトル。
アードベッグ最強のフェノール値。
カリラ'95(インプレッシヴ)1400円
インプレッシヴ・カスクの一本。08年のボトリング、13年もの、60.4度のカスク・ストレングス。
インプレッシヴ・カスクはダンカン・テイラー社のボトル。
スプリングバンク10年※800円
ファースト・エディションは2000年春、バーボン・カスクの17年もの、46度のディスティラリー・ボトル。
スプリングバンク・ゴールドファウンダーズ(ロッホデール)1600円
08年12月発売の最終リリース。バーボン・カスクの17年もの、46度のミディアムボディ。
前回のブラック・ファウンダーズから8箇月、さらに熟成を経た17年ものとしてボトリング。過去二度ののボトルは年数の異なるバーボン樽とシェリー樽数種類のカスクをブレンドしていたが、前回からはエイジングを記載。本品はバーボン・カスクのみを用いる。
ストラスミル'92(ジェームズ・マッカーサー)1300円
オールド・マスターズの一本。03年のボトリング。11年もの、64.2度のカスク・ストレングスにしてシングル・カスク。
透析のための精密検査や透析シャントを造る手術を受けないといけないので、店は開けても早晩、入院しないといけない。日付其他はいまだ未定。予定が立たないまま、取り敢えずの開店である。
いつまで店の営業ができるか、今のわたしにとってもっとも気掛かりな問題である。医師のひとりは五年が限界だろうという。いまひとりの医師からははるかに短い期間を示唆された。多くの患者を看てきた医師の意見を拝聴するが、個体差があって、そこまで持続できるとは限らない。半年単位で考えるしかないのだろうが、それにしても、拙宅のモルト・ウィスキーの在庫を処分するのは不可能である。例え五年かけてもアードベッグやポート・エレンはなくならない。安価なウィスキーの値は変えないが、一杯2000円から5000円のウィスキーは大幅に値下げしようと思っている。残ったウィスキーの処理はおっきーさんや幹郎さんにお願いする予定。四、五種の定番を除いて、現在の六百種の在庫は売り切ってゆく。要するに、新規ボトルの購入は極力減らしてゆく。
今回の入院に際し、実に多くの方のご好意に甘えた。いくら感謝しても感謝しつくせるものではない。と同時に、いささか困惑させられるようなメールも頂戴した。
腎不全になったからと云って、同情を買うつもりはなく、嘆き節を書いているつもりもなく、もし左様読まれたとするなら、わたしの文章が拙かったというだけのこと。ことごとくは私事であって、私事に興味をお持ちでない方が当掲示板を繙くことはなかろう。ですぺらの常連さんにあっても、いつも詰らないことばかり書いている、と忠告してくださる方の幾人かはいらっしゃる。
わたしがあと一年生きようと十年生きようと、そのような瑣末なことはどうでもよく、ひとの存在は新陳代謝だと常日頃から書いている。為合せ、不為合せといった問題も他人のことであればこそ同情もするが、我が身のことなら論外。金が失くなることも、命が劃られることも、あるがままに受け容れるしかないと心得ている。繰り返すが、透析を受けて生きのびようと、拒否して死のうと、かかる世俗への配慮はどうでもよいことなのである。
これからどう振る舞うかはとうに決めている。そしてそれを決めるのは私いちにんのみ。それまでの個の搖れもしくは搖れと思しきものを書き綴っているのであって、明瞭な概念にはいささかの興味も未練もない。
年少者がすばらしいことを書けば、褒めそやさなければならない、それが例え自分の子であっても。掲示板は毎日覗いているが、メールは三日に一度ぐらいである。だから隆さんからのメールが届いているのに気付かなかった。
隆さんについて書くにはいささかの躊躇いがある。その躊躇いはわたしが親として成すべきことを何ひとつしていないところにある。何もしていないにもかかわらず、隆さんは親としてわたしを遇してくださる。言い換えれば、わたしは彼によって親にさせられているようなものである。文中に「もしお手伝いできるようなことがあれば言って下さい。親孝行らしき事はまだ何もできていなかったもので」とある。恨まれてこそ順当、憐憫の情をかけられるとは意外だった。お気持ちに対し、深甚の謝意を表したい。葬儀は願い下げだが、数年後には彼なりの野辺送りをすることになろうか。海原への散骨を望むが場所に希望はない、とでも書いておこう。
同じメールのなかに「沢山の人が、まだまだあなたを必要としていますし、私もそんな中の一人であります」と書かれている。双方が当事者であることは差しおいて、自らの心情の吐露に先立って見知らぬ他者への気配りを忘れない。彼がいつ頃からこのような遠慮の構造を学んだのか分からない。ただ、見事な心掛けと感服させられた。またひとり、よき友を得たと思う。
来週十一日のですぺら営業再開目差して、歩行訓練に明け暮れている。駐車場から店までの一キロが歩かれないと営業が覚束ないからである。
末期腎不全の特徴のひとつに身体が疲れやすくなるというのがあるが、とにかく、よく寝るようになった。起きてる時間は八、九時間で他はずっと寝入ったままである。これではまるで寝るために生きているようなものである。腎不全に罹ったひとは為事ができなくなるというのがよく分かる。
透析患者のブログを読んでいてひとつ気付いたことがある。誰も触れていないと云うことは個体差があるのかもしれないが、性欲についてである。わたしは2002年頃から急速に性欲が衰えていった。何時からとは書かないが、このところ数年は完全に性欲はなくなった。去年、四谷シモンさんと紀伊國屋書店でお会いし、若い女性と暮らしているといったところ、性欲はないでしょうと問われた。ないですねと応えたが、それは二重の罪を犯しているとの鋭い指摘を受けた。視力の衰えについてはすでに書いたが、これらはすべて腎不全に起因するようである。
個体差があるので、なんとも云えないが、透析患者の半数は五年以内に死亡する。そして開始から十年以内にほとんどの患者は死亡する。なかには二十年を超えて透析を続けているひともいるが、それは例外であろう。そもそも腎不全は不可逆な病であり死の宣告である。医療技術の発達によって透析で生かされているが、基本的には人工呼吸器と同じく、人工腎臓(機械)につながれての延命に違いない。いずれにせよ、血液透析に入るのは余命のカウントダウンに入るのと同じことである。
当掲示板で異変があった。いつも面白がって見ているアクセスログ閲覧だが、このところ「ですぺら」やシングルモルトを追い越して、「田中香織」と「カセットガス 自殺」がトップにやってきた。後者はともかく、前者はちはらさんの本名なのだが、同時に押尾学事件の変死体女性の本名(源氏名、麗城あげは)でもある。某紙によると押尾学は半年前から麗城あげはさんと不倫関係にあったらしいが、わたしは聞き及んでいない。昨日は出社すると、「あれ、生きていたの」と同僚から声をかけられたという。はなしはそこまでである。
当掲示板は私事かモルトウィスキーに関する記述を専らとする。公人を除き、他人についてはなにかしらの事情がない限り触れない。それがウェブサイトにおける唯一の礼儀だと思っている。
一日の摂取量は1800キロカロリー、蛋白は上限が45グラム、塩分は5グラム、カリウムは1800ミリグラムが今月の食事の内容です。牛丼だと並盛り一食で超えてしまいます。従って、すべて自炊になります。絶対量が少ないのでハイカロリーの食事がよろしいのですが、なかなか相応しい食べ物がなく、難渋いたしております。
菜食はわたしにとっては夢のまた夢になりました。野菜は果物同様、カリウムが非常に高いので、そのままでは食べられません。何度も水洗いし、数時間水に晒す、もしくは温野菜をごく少量になります。芋を食べたいなら菎蒻を、豆を食べたいなら油揚げか凍り豆腐、または醤油抜きの湯葉となります。
「春陽」や「晴米」は炊飯米です。外食は禁じられました。わたしは料理人なので、カリウムがどうの、ナトリウムがどうのと云われてはなしは通じますが、そもそもプリン体や塩分を含まない食品はほとんど存在しません。はじめて食事療法に入った方にとっては絶望的な作業になると思います。
お説のとおり、シアナマイドはマゾヒストを狂喜乱舞させるための薬ですが、断酒に医師が必要でしょうか。わたしは自分の意志で煙草を咽んでいますが、禁煙のやむなきに至れば、即刻やめます。煙草に限らずですが。
一考様
お酒をやめたいと頼んだら
「死ぬほど苦しむ薬があるよ」と
いって処方してもらったんです。
残念ながら禁酒中なんです。
ローカロリーで
塩分控えめのおいしい食事ですかね。
水炊でせふか。
僕も菜食主義宣言をする日を夢みて
野菜を食べているんですけれど
完璧というのは手ごわいですね。
欲望に負けまくってます。
私事でお恥ずかしいのでこのへんで。
重ね重ねですが、おだいじになさってくださいませ。
来週十一日からですぺらの営業を再開します。
例によって片肺飛行で、フードは持ち込みで結構です。
当分は車での出勤になりますので、午後七時開店です。
どうかよろしくお願い致します。
屋内に限られるが、松葉杖なしで歩けるようになった。といっても、支えがいたるところにあるトイレとキッチンだけなのだが。しかし嬉しい、本当に嬉しい。事故から二十二日目、順調な恢復である。昨夜は風呂に入り、身体をはじめて洗った。骨はまだくっついていないが、リハビリの看護師は愕いている。これもみなさんのお陰である。
今までは筋や筋肉を伸ばす訓練ばかりしてきたが、これからは縮める練習をしなければならない。こちらは体重をかけなければならないので、痛みが走る。それにしても、この調子だと一箇月半で全快しそうな勢いである。
シアナマイドは抗酒剤ですが、どうして必要になったのですか。ですぺらには約一名、シアナマイドが必要と思われる装訂家がいらっしゃいます。劇薬ですよ、あれは要注意です(シアナマイドが劇薬か、装訂家が劇薬か判然としない、このような書き方がわたしの好みなのです)。
食事制限に入ったので日々困惑させられています。蛋白質、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、リンは厳禁です。果物は全滅ですが、缶詰のフルーツなら構わない、その理由はカリウムが水に溶けるからです。ちなみに柿ピーは一日十五粒が限界だそうです。熱量は摂らないといけないのですが、栄養にはさまざまな制限が設けられています。早い話がでんぷんと砂糖を喰っていれば、熱量だけは大丈夫なようです。糖尿のひとはその糖分すら駄目で、一体なにを食しているのでしょうね。
でんぷんを米のかたちに成形加工したものがでんぷん米、これは不味いです。透析が続かない理由のひとつに食事療養が上げられます。水は一日にコップ一杯、薬は唾液で嚥下しないといけません。欧米では透析患者の自殺率が高いのですが、日本では病死扱いで、自殺にはカウントされません。数は書きませんが、病気が理由の自殺を含めればわが国の自殺者数は約倍になるそうです。それも自愛のヴァリエーションのひとつかと思いつつ・・・。
一考様
こんにちは。
れいはるです。
シアナマイドという薬を
医者からもらって
試しにそれを飲んでみて
更にウイスキーを飲んだら
最初に顔が赤くなり
次に顔が黒くなり
最後の顔がまっしろになった。
鏡をみたら
瞳孔が開いたようになっていて
あれはたのしかった。
一考さんはなにを栄養にして生きているのか
僕にはよくわからないけれど
栄養をよくとって
たまには休まないと。
どうぞ、ご自愛くださいませ。
ではまた。
先日、高遠弘美さんの見舞いに与った。お忙しいなかをわが身ごときのために時間をお割き下さって恐縮している。「Oの物語」について書かなければならないが、今のわたしには到底無理である。このところ、自分が罹った病気についてばかり書いている。その理由は集中力をなくしたからである。眩暈がひどく、ひとつことを考え続けられない。最近書いている文章にも誤字脱字が多いのではないかと案じている。「Oの物語」についてはいずれ書かせていただくとして、今夜もまた私事を書き連ねる。
今日は医師と数時間、医学を超えたはなしをした。腎臓は悪化の一歩、一週間以内に透析をはじめなければ一箇月も持たない数値になったと医師は云う。透析に問題があるのでなく、生きながらえる価値がわたしにあるのかどうか、迷いつづけている。死ぬことばかりを考えていた若い頃の感慨がいまなおわたしのなかに残っているとすれば、躊躇なく死を選ぶはずである。moonさん宛に書いた文章だが、「とりとめもなく」の末尾が気になって仕方がない。
かかる迷いが生じるのは分かっていた。分かっていたが故に今回の一連の書き込みの頭に「腎不全」を置いた。そしてその迷いを他者はいかように処理しているのか、そこのところを医師と話し込んだのである。当然、結論が得られるとは思っていない。
「渡辺さんのような考えをお持ちの方はままいらっしゃる。しかし、現状では毒素が頭にまで回っている。透析さえはじめればより冷静にものごとを考えられるのではないだろうか。そして私たちの為事は、一日一日、単なる延命策にこころを摧くことだ」。実に誠実な医師である。延命策などと云う文言を吐露させたことを済まなく思う。
とりあえず、身体障害者手帳取得の手続きは済ませた。透析をはじめるしかないことは分かっている。そして透析をはじめるであろうことも分かっている。ただ、もう少しこころを整理し、風通しをよくしておきたいのである。
御見舞いとの札をぶらさげて明石蛸がやってきた。胴と足をばらばらに解体して冷凍しなおす。胴の半分と足一本は生のままバター炒めで頂戴した。送り主の季村敏夫さんに感謝する。ですぺら再開の折に、お世話になった方々にバター炒めを味見していただこう。わたしは塩が使えないので山椒と檸檬だけの味付けになったが、やはりもの足りない。店では塩をたっぷりと使うつもり。
「やさしお」という塩分二分の一の食卓塩をちはらさんが見付けてきた。「塩味はそのまま、塩分二分の一」が売りなのだが、釈然としない。ナトリウムの替わりにカリウムやマグネシウムを増やしただけではないのかと思う、栄養士に相談してみなければ分からない。
他にも減塩醤油、減塩味噌、減塩マヨネーズ、減塩ウスターソース、無塩バター、無塩マーガリン、減塩だしの素等々がある。買い物に行かれないので、減塩醤油と減塩だしの素のみ入手した。塩のかわりに使ってもかまわない調味料は胡椒、山椒、辛子、七味唐辛子、山葵、生姜、紫蘇の葉、梅干し、カレー粉、酢、檸檬、柚子、かぼす、トマトピューレーである。従って、味付けの方法を根本から変えなければならない。
低蛋白米「春陽」を購入したが5キロ3000円(送料700円)、いままで5キロ1400円以下の米しか口にしたことがない。LGCソフトの「晴米」5キロ1850円(送料735円)と混ぜ合わせて食べている。副食は横浜のメディカルフーズから試食用12食7200円(送料一部負担342円)を取り寄せた。一食あたり600円で、ネット検索による最安値だった。
わたしは酒も煙草を嗜むので食費は切り詰めている。米や調味料それに菓子などを加えても月にならすと1万5000円までである。それが一挙に三倍に膨らみそうである。「療養食こそ、おいしくなくては」がこのようなメーカーの宣伝文句だが、「療養食こそ、安く利用できなくては」と思う。わたしが取り寄せたコースはたんぱく調整食で一食9グラムとなっている。特許を無償公開したゴールデンライスのように、遺伝子組換えによる成分改変食品の発達が待たれる。
わたしのような末期腎臓不全のみならず、糖尿やスギ花粉などに悩んでいるひとは結構いる。茶葉からカリウムを減らすぐらいは技術的に可能だと思うが、環境や消費者団体などへの影響を顧みて一部自治体では条例で遺伝子組換え作物の栽培が規制されている。まったく禁止されている都道府県も10を算える。また、スギ花粉症緩和米などは医薬品としての規制を受ける。前述の春陽も規制が激しく、それが高値の理由になっている。ここにも健常者(マジョリティ)の専横がある。
知己からあのひと検索SPYSEE[スパイシー]とのサイトを教わった。
自分の名前を検索するほど野暮ではないが、わたしを冷かしたいひとには面白かろう。よって、アドレスを掲げておく。
http://spysee.jp/%E6%B8%A1%E8%BE%BA%E4%B8%80%E8%80%83
写真中央に新宿二丁目のナジャ店主安保由夫さんが写っているのが微笑ましい。面識のないひとなら安保さんをわたしと思ってしまう。安保さんが不快でなければそれも一興だが。
相澤啓三さんがつながりの強いひととやらに這入っていないのは、項目の登録者の個人的趣味によるものか。松山俊太郎さんが這入っているのは嬉しいが、俳人がことごとく抜けているのは片手落ちだろう。半生を編輯者として送ったが、為事の九割方は俳句出版だったと思っている。
日曜日は諸用を頓けるにおっきーさん運転のポルシェ968カブリオレを利用させていただいた。ポルシェ製水冷FRスポーツカーの最終モデルで、直列4気筒としては世界最大排気量三リットル。着座位置は極端に低く、わたしのように足が短いとサンバイザーが頭の上に来てしまう、いささか乗りにくそうな車である。わたしはポルシェに乗るのははじめてだが、空気圧は見込みどおり2.6を軽く越えている。ゲトラグ製の6速マニュアルトランスミッションを持ち、このところオートマ車が続いたわたしにとって、ちょいと羨ましい。
おっきーさんから多種多量のこわめしを頂戴したので冷凍、これだけでも一週間は大丈夫である。てんこ盛りの串カツや練り天も頂戴したが、腎臓によいかどうかを考える暇もなく片付けてしまった。
火曜日はサンドイッチが無性に食べたくなって、増田さんに買い物をお願いした。ところが山崎医師の怪訝な顔。川津さんからの「腎臓病食品交換表」を調べて愕いた。果実と芋類のカリウムが高いのは知っていたが、レタス、みつば、ほうれんそう、ふき、にんじん、ねぎ、こまつな、セロリー、だいこん等々もカリウムの含有量が飛び抜けて高い。山崎医師と石川医師から野菜と果物には要注意と聞かされていたが、ハムよりレタスが問題だったとは。これからなにを食すればよろしいのか、考え込んでしまった。
今日は足が固定される日なので、帰りは心配していなかったが、行きしなは随分と迷い、結局マスタングに乗って浦和の病院まで行った。こういうこともあろうかとオートマ車は左右どちらの足でも運転できるようにしている。アクセル操作は問題ないが、ブレーキがかなりぎこちない。もっとも、看護師は呆れ返っていたようだが。
レントゲンを撮ったが、骨はまだくっついていない。しかし、さすがに山崎医師が紹介した医師である。フレキシブルなバンドによる固定で、三十キロまでなら体重がかけられる。痛みを感じる限界まで右足を使うようにと云われた。小一時間、足首の運動を試みる。捻ることはできないが、足首の前後角は健康な左足のマイナス五度。これなら一箇月後には特別なリハビリなしで元に戻る。
骨折を経験したひとなら分かるのだが、就寝時にギブスはいらない。わたしはギブスを縦割りに二分割してバンド止めする方法を実践していた。骨折で最大の難儀は癒ったあとのリハビリにある。そして骨には適当な刺激を与えつづけるほうが癒りは速い。今回のマジックテープを利用した脱着可能なギブスがいつ頃から使われているのか知らないが、最良の医療器具の一である。一昔前なら間違いなく骨が癒着するまでは石膏でがちがちに固めていた。川久保病院の院長はわたしより大胆である。この分だと来週末には営業を再開できるかもしれない。
ワンアルファ(腸からのカルシウムの吸収を促進し、骨がもろくなるのを防ぐ)1回1錠 1日1回
クレストール(血液中のコレステロールや中性脂肪の量を下げる)1回1錠 1日1回
ザイロリック(体内で尿酸が作られるのを抑える。結果、痛風の発作を予防する)1回1錠 1日2回
ウラリット(酸性尿をアルカリ化し、尿酸結石を防ぐ)1回4錠 1日3回
カリメート(とにもかくにも飲みにくい薬)1回1包み 1日3回
ニューロタン(血圧を下げる)1回半錠 1日1回
日々、以上の薬を飲んでいる。問題は食事療法で、こちらはかなり難儀である。食塩と水分の制限、カリウム、蛋白質、リンの取りすぎは要注意。ちなみに、飯は120グラム、うどんが半玉、中華麺・パスタの類いは60グラム(ということは三分の一)が適量であるそうな。
このところ体調が思わしくなく、一食の弁当を片づけるのに二十四時間以上掛かっている。通常の弁当(例えば海苔弁)には飯が200グラム入っている。二年ほど前から、これを全量食すれば嘔吐してしまう。従って、ミニ弁当にはすこぶる助けられている。
おっきーさんの紹介でミールタイムというところの会員になった。慢性腎不全や糖尿病の方向けの通販サイトである。金は掛かるがこういうものからはじめながら、腎臓病食を学んでゆくしかない。果物ジュースや野菜ジュース、スポーツ飲料にはカリウムが多く、コーラやサイダーにはまったく入っていないなど、知らないことが多すぎるからである。
嬉しいことにウィスキー、ブランデー、ジンは水さえ飲まなければ問題なさそうである。
なだ万の弁当に鱧と冬瓜の煮付けを持って川津さんが来られた。冬瓜は確かカリウムの含有量が多く、慢性腎不全には不向きかと思ったが、これが実に美味い。冬瓜はかつて店のお通しにもよく使った、店では鱧の替わりに海老を用いたが。おそらく生涯で最後の冬瓜になると心して頂戴した。それにしても、なだ十かなだ百ならともかく、なだ万の弁当とは恐れ入った。川津さんに御礼申し上げる。
「腎臓病食品交換表」と「腎不全がわかる本(出浦照國著)」の二著を川津さんがお持ち下さった。共に、食事療法の本だが、今のわたしには必要な著書である。とりわけ前書はよってたかって書かれた本だが、よく纏まっている。詩書の選択ではなく、かかる実用書の撰にあたって随分と迷われたのではないかと思う。併せて感謝する。
誠に申し訳ないのですが、26日、日曜日の御見舞いはご遠慮いただきたい。日曜日は車の都合がつくので、銀行、振込、買い物等々処理しなければならない用事が山積みです。従って、在宅時間がわたしにも分からないのです。
今月末まではわたしはひとりです。動かれないので、弁当ひとつ買いに行かれない。今日、明日はその幕の内弁当が手に入りそうで、嬉しく思っている。
この一年余、尿酸値や尿蛋白、あるいはカルシウム不足で痛風に泣かされてきた。食生活や酒が災いして腎臓に無理が掛かっていると勝手に判断してきた。ところが、既に腎臓が壊れてい、それが理由で尿酸値や尿蛋白、揚句はクレアチニンと尿素窒素が危険な値にまで上がってしまった。腎臓結石が引き金になったに違いないのだが、今回の症状は素人判断の限界を示唆している。わずか一週間の入院だったが、その間にも数値はどんどん高まってゆく。腎臓が出し続けたサインを見落とした、もしくは見誤ったというところか。
済んだことは諦めるしかなく、末期はおろか、後期高齢者の仲間入りもできなくなった。横須賀功光さんではないが、わたし自身が残日指折り数えるはめに陥ってしまった。
「かかる内向的なニヒリズムこそが人を失意のどん底へと誘う」と書いたのは本音である。本音であるが故に迂闊には書かれない、誤解を生むからである。相手がおっきーさんであればこそ可能な物言いだった。
この一週間、思いは揺れ動いた。千々に乱れたと書いた方が思いに添う。そして、さらにデスペレート(捨て鉢)になったに違いない。
一汁二菜が基本である。飯は140グラム、みそ汁は80cc、菜は卵焼きのあんかけ、量は玉子半個分、それに小鉢に菠薐草のお浸しを少々。松屋の牛飯やカレーの半分の量と思えば間違いない。家で飯を炊くと150グラムずつラップで巻いて冷蔵庫へ入れる。ただ、副食が玉子半個ということはない。一度だけパン食だったが、6枚切り食パンを2枚と玉葱のスープを100cc、それに5グラムのマーマレードと牛乳のみ、学校給食ですらマーガリンが付いたのにと思う。これが一食660円、一日あたり1980円である。要するに病院食は思った以上に高価な粗食である。コンビニの弁当と違い、日替わりなので、それなりに原価は掛かる。それにしても、企業努力が入り込む余地はそこら中にある。わたしが給食屋なら半額で成り立つ、他は賂か。
身体に生じるトラブルはひとつずつであって欲しい、と勝手なことを思う。二十二日の昼からなにも食していないので、先ほどインスタントカレーを食べた。温めるだけなので、健康であれば三分でできるのだが、三十分以上掛かる。食する時間を加えると、小一時間費やしたことになる。カレーが腎臓に良いか悪いかといえば悪いに決まっている。しかし食欲がなく、口が悪い(味覚がないの意)。明日、見舞い客が訪れるという。幕の内弁当でも買ってきていただけると有り難いのだが。
久しぶりに掲示板に接続。纏めて書きなおせばよいのだが、それも面倒である。従って書いた順に掲載した。
退院は、まなさんとひろゆきさんに手伝っていただいた。まなさんには山崎診療所から松葉杖を運んでいただいた。それがないと退院すら覚束なかった。ここに特筆大書して感謝する。
それにしても松葉杖の使い方は下手である。リハビリの医師から120パーセントひっくり返ると云われた。あまりの下手さかげんに医師がわたしの身体をチェック、過去遭遇した事故や骨折の跡をことごとく言い当ててゆく。特に左肩には筋力がなにもなく、これでは体重を支えられないとの由。松葉杖が使えなければ退院させられないというのを無理矢理説得した。人類はもともと四つ足だった、と。
昨夜は惚けたように眠り続けた。 おそらく、これを書いたあと、また眠るに違いない。身体がそれを欲したときは逆らわないのが一番である。
「人生というのは始まったときから余生のようなもの、体中の器官はすべて常に未病から病に移行しつつある時限爆弾のようなもの」とはおっきーさんからのメールだが、さすがに巧く表現なさる。かかる内向的なニヒリズムこそが人を失意のどん底へと誘う。
慶應義塾大学病院で頂戴した痛み止めロキソリンと胃薬ムコスタ各一錠、それにワンアルファ半錠、ザイロリック一錠、クレストール一錠、ウラリット四錠、以上が当分のあいだ飲み続ける薬である。平成元年に怪しげな薬は断ったので、久しぶりの薬漬けである。
退院時の請求書を見ておどろいた。十六日からだからわずかに六日、それで店一箇月分の売上金額だった。手持ち資金では足りない、御見舞いとして頂戴した金数がなければ退院することすら叶わなかった。各位に満腔の謝意を表したく思う。
事前に値段が分からないのは問題である。それが嫌で、ですぺらは寡多録を拵えている。病院も入院、診断、投薬、食事等々のメニューを明示すべきである。慌てて、栄養指導やリハビリの予約を取り消した。骨折に関してはギブスさえ装着してもらえば後始末は自分でつけられる。
腎臓の機能障害を捨て置くとどうなるのか山崎医師に尋ねた。不整脈でポックリ死ぬそうな。それもまた、すこぶる個性的な死にざまではないか。余談だが、死にざまに倣って生きざまとの言葉が(ライフスタイル)の意で用いられる。しかも自嘲や否定でなく、近頃は肯定的な意味合いに遣う。わたしの辞書にはない言葉である。(22日)
今日はレントゲンと再度の静脈からの血液検査、昨日は動脈からの血液検査で、これは血中の酸素濃度を調べた。腎臓の専門医石川さんの診察日が火曜日、従ってわたしの通院日も毎週火曜日になる。バイクには乗られないので、スクーターの手配をしなければならない。
今日から自炊がはじまる。炊飯器やまな板、カセットガスの類いを台所の床一面に拡げておくように伝えた。腹這いになって調理するしかないからである。このカセットガスに関しては自殺を案じた方がいたが、いまはまだそのような時期ではない。いずれそうなるかもしれないが、その時はその旨を掲示板で書く。いずれにせよ、今月一杯は徘徊老人ならぬ寝たきり老人になる。
痛みがひどいので、立ち上がらなければならないのはトイレだけにしたい。あとわたしにどうにもならないのは食料品の買い出しである。冷凍庫に一週間分の食料は入っている、必要な生野菜だけでもちょいと追加できれば嬉しいのだが。
八月四日以降の通院は自分で処理できる、問題は七月二十八日である。これには運転手が必要である。どなたか協力してくださる方はおられないものか。(22日)
CTスキャンが終わり、専門医と話し合った。腎機能は結石に関係なく加速度的に悪くなって行く。恢復の見込みはまったくなく、明日はじまるかも知れぬ透析を延ばしても三箇月先、半年先には必ずやって来る。これからは今までにもまして貧血と不整脈に頻繁に襲われるようになる。そのあいだに足の方を癒さなければ。
少しでも生きながらえるには薬物療法と食事療法しかなく、栄養士の講義を受けるのは必須と云われた。調理師が栄養士の講義を受けるとは、果敢無いはなしである。今思うに、関節痛は腎機能の低下が理由、腎臓からのビタミンDの補給がないのでカルシウムが摂取されず、この一年で骨が極端に弱くなっているそうな。山崎医師の口添えもあって二十二日夕刻の退院許可が出た。骨折の方は月末にギブスの装着が決まった。
知らない街や自然を見聞きし、バイクで駈けめぐり、北海道の見知らぬ大地の匂いに噎せた日々を想い起こす。小水の魚となったいまも、雨とともに、風とともにあった幾多の野営場が頭のなかをよぎる。わたしはなんという贅沢を味わってきたのだろうかと。深夜の病院のラウンジで幹郎さんの真似をしてデミタス珈琲をゆっくり啜る。ささやかな自由、そしてささやかな苦味が激痛のように口のなかを刺す。なぜか涙が濫れだしてとまらない。(22日)
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