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一考 | ボジョレー・ヌーボー

 予約をしてまで、航空運賃が加算された高価なボジョレー・ヌーボーを飲みたいとは思わない。しかし、横須賀さんの写真展会場で出されたヌーボーは美味しかった、宇野さんもいけると頷いておられた。バーテンに銘柄を訊いたのだが、知らないメーカーだという。一箇月ほどして、友人からさまざまなヌーボーを飲ませていただいた。個別の解説を書くのが代価である。不味いので有名なジョルジュ・デュブッフからノンフィルターのジャン・クロード・ジャンボン、マルセル・ラピエール、トラン、ジャン・ポール・セル、モラン、さらにルイ・テットやドメーヌ・シャサーニュ等々、約二十種類である。そのうち、トランのヌーボーで盃が止まった。同社は数種類のヌーボーをボトリングしているが、友人の店には三種類のトランのヌーボーがあった。そのなかに「ラ・パレイユ」というボトルがあった。横須賀さんの写真展で馳走になったヌーボーはこれである。高級品であることが興味の対象にはならない、しかし旨いものには尽きせぬ興味が湧く、あとはその「ラ・パレイユ」だけを一本まるごと馳走になった。

 晩年の横須賀さんはかなり貧していた。従って、彼と食事にいくのは松屋、飲みにいくのは和民と決めていた。しかし、彼と盃を重ねると和民のワインが輝きを増す、酒とはそういうものである。彼がですぺらへ現れたとき、一番安いワインを所望なさったが、そのシチリアのキャンティーネ・セッテソリと最高級のフォンテーヌ・ガニャールのモンラッシェ'89に感心なさっていた。そこが彼らしいところであり、それ故に気をつかう。例えば、日本酒の磯自慢だが、生酒を五度以下で五年以上寝かせたものを八百円で売っている。ワイルドターキーは94年のボトルを七百円で売っている。共に一万円を軽く超える値で取引されている。過日、水谷さんがラフロイグ30年の味が他店と違うとご指摘なさった。当然である、ヴィンテージが異なれば値にも五万八千円から一万八千円の差が生じる。そしてヴィンテージはラベルには記載されていない、香味で確認するしかない。味をききわけるに際し、観念的な操作でことにあたってはお仕舞いである。体験的にきたえた眼と鼻と舌を通じて選別する職人に徹することが必須である。蒸留所が全焼した2000年以降のターキーとそれ以前のターキーを峻別できないひとにターキーは不向きである。70~80年代のコルドンブルーを識っているひとに現今のコニャックは淡麗辛口に過ぎて飲まれない。それでも飲むならアーリーランテッドを除いてなにもない。ラベルではなく、香味で飲む、文句があるなら口でこい、である。
 かかるご託を並べるのは他でもない。このところ酒の整理が続いている。インポーターがウィスキーを、銀座の某酒店がワインを買いにやってくる。持っていてもしかたなく、店の売値に色を付けるというので、自宅の高級ワインを処分している。このようにして、こだわりがまたひとつ消えてゆく。さて、新宿ではなにを売ろうか。



投稿者: 一考    日時: 2006年07月20日 05:15 | 固定ページリンク





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