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一考 | 個人社の新刊

一考 個人社の新刊 2006年03月12日(日)00時09分41秒
 前項のS・Kこと小出昌洋さんから個人社叢書の新刊が送られてきた。「新編 夢の舞台誌」深澤節子著と「森銑三西鶴論集1」の二冊である。

 深澤節子さんは江口隆哉・宮操子舞踊研究所の門下である。大野一雄さんは戦前からの江口・宮門下なので、いわば兄弟弟子にあたる。巻頭に配された表題作には江口隆哉・宮操子から伏屋順仁、池田瑞臣、大野一雄、土方巽等の名前が並んでいる。深澤さんご自身も敗戦から1960年頃にかけての創作舞踏界では識られたひとで、伏屋の振付、演出で上演された「発火」は、大野一雄や土方巽にも大きな影響を与えている。文中でも、ガニ股、猫背、猪首、縮んだ手足など、東北地方の土俗的情念の肉体化に挑んだ土方巽の舞踏を激賞、それぞれの時代に「荒ぶる情念をたぎらせた」舞踏家を熱っぽく語っている。わが国の舞踏の歴史を知るに好著といえる。
 「夢の舞台誌」は1998年に私家版で上梓されているが、今回は内容を刷新しての個人社叢書となった。

 「森銑三西鶴論集1」は「西鶴随筆」と「新西鶴随筆」に分冊されてい、とりあえず「西鶴随筆」が上梓された。三十一篇が収録されているが、「一代男の跋文」では三田村鳶魚を中心とする西鶴輪講について触れている。鈴木南陵や林若樹の発言を引用しながら、「一代男」の跋文の難解さにチャレンジし、私見としながらも、森銑三ならではの解釈を著している。曰く、跋文の撰者は西吟とされているが、それは間違いであって、西鶴そのひとに違いない。文章はつづく、
 「『一代男』という作品には、特別の資料というべきものもないものだから、この跋文を通して何者かを獲ようと、何人も志すのであるが、いかにも要領を得難い。それでその中に『転合書』の一語のあるのを取上げて、『一代男』は転合書だ、いたづら書だ、なぐり書だといい立てて、ただそれだけで茶を濁している。そしてそれ以上には出ないというのが現状である」
 引用に他意はない、このところ上梓される西鶴論を読むに現状はなにひとつ変わっていない。かつて当掲示板でも書いたことだが、森銑三の西鶴論を暴論と片付ける前に、小気味いい断定形の語り口に耳を傾けてほしい。西鶴随筆と題されてはいるが、本書は「一代男」へのオマージュ集であり、西鶴と森銑三との葛藤の場でもある。西鶴の創意、軒昂たる意気を窺うには「一代男」しかないのである。

「新編 夢の舞台誌」深澤節子著 定価1260円
「森銑三西鶴論集1」小出昌洋編 本体定価2000円

 個人社 郵便番号177-0044
 練馬区上石神井2-12-5-406



投稿者: 一考    日時: 2006年03月12日 00:09 | 固定ページリンク





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