ですぺら
ですぺら掲示板1.0
1.0





« 前の記事「ファンレター」 | | 次の記事「小出昌洋さんの私家版」 »

一考 | 土屋和之さんの私家版

 高遠弘美さんの弟子すじにあたる土屋和之さんがエフライム・ミカエル詩集「玩具店」を上梓なさった。発行所は書肆あいか、印刷悦楽印刷、製本蹌踉とおくつけにある。もうお分かりかと思うが、自らパソコンでプリントアウトし、糸かがりした私刊本である。ミカエルにかんしては白鳥友彦さんの訳詩集「月と奇人」を参照されたいが、私自身二十代はじめのころ、曽根元吉さんからずいぶんと聴かされた。土屋さんの跋にもご両名の名が摺りこまれている。四篇の散文詩が収録されているが、末尾に置かれた「毒花」の出だしを紹介したい。

 森の中、あらゆる枝々に毒花が生ずる。毒花は残忍であつかましい。獣に似てゐるし、死にかけの手、あるいは古傷、またはおぞましい口に似てもゐる。それはまた、醜悪な鳥の首のやうに茎を伸ばす。花々はお互ひに向かい合ひ、狭い小径の上に、恨みこもった毒の雨を花の額よりほとばしらせた。
 をりしも、騎士は、教へに従ひ鉄兜の黄金の仮面をかむり、毒花咲く枝々の下をゆるゆると馬に乗つて行つた。

 用紙の選択ならびに製本は楚々として瀟洒、たって申せばかがり糸に麻糸を用いて頂きたかったことのみ。かつてはかような簡冊子を拵えるのにも数十万の金数を必要とした。パソコンを道具に私家版を造る、その姿勢に私は大賛成である。それでなくとも、メディアは活字からデジタルに変わりつつある。あと三年ほど経てば文字制限からも解放されるであろう。土屋さんのこれからの活躍、ご健闘を祈ります。

 先日、土屋さんがお連れになった女性はシュオブが卒論で、もっかノエルを翻訳なさっておられるとか。土屋さんと一緒に手縢り本を造られるよう強く望みます。なお、土屋さんが最近引っ越されたらしく、住所が分かりません。「玩具店」を購入なさりたい方は(電話090-2935-4401)へどうぞ。



投稿者: 一考    日時: 2003年11月26日 20:36 | 固定ページリンク





« 前の記事「ファンレター」 | | 次の記事「小出昌洋さんの私家版」 »

ですぺら
トップへ
掲示板1.0
トップへ
掲示板2.0
トップへ


メール窓口
トップページへ戻る