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一考 | 佐々木幹郎さんとスランジバー

 詩人の佐々木幹郎さんが来店。佐々木さんは高橋睦郎さんと共にアイルランドとスコットランドへ旅行なさっているので、ウィスキーに詳しいとはお聴きしていましたが、さすが飲んべえ、よくご存じでした。シグナトリーのカリラ、プライヴェート・コレクションのカリラ、クーリーのロックス、ロイヤル・ロッホナガー12年、ノックドゥー21年、ハート・ブラザーズのラガヴーリン、最後にローハン・ソランと飲み継いで「ノーブル」を連発なさっていました。
 佐々木さんと話していて、アイリッシュ・ウィスキーとスコッチ・ウィスキーの違いが日本人には知られていない、どうも誤解があるのではないかということになりました。そこで一言。
 アメリカの禁酒法時代、アイルランドとスコットランドのキャンベルタウンではウィスキーが粗製濫造されました。それに懲りて禁酒法解禁後、アイルランドとキャンベルタウンのウィスキーはそっぽを向かれ、ほとんどの蒸留所が閉鎖もしくは倒産しました。四十以上あったキャンベルタウンの蒸留所で生き残ったのはスプリングバンクとグレンスコシアの二社。アイルランドに至ってはイギリス領北アイルランドのブッシュミルズと南部コーク州のミドルトンの二つの蒸留所のみになり、共にアイリッシュ・ディスティラ-ズ社の所有となりました。かてて加えて同社はフランスのペルノ・リカール社に買収され、アイルランド人によるアイルランド人のための蒸留所は壊滅したのです。ジョン・ジェムソン、ブッシュミルズ、ブラック・ブッシュ、パワーズ、パディー、タラモア・デュー、ダンフィーズなど、アイリッシュ・ブレンデッドに用いられるモルトはすべてその二つの蒸留所で醸されているのです。
 アイルランドでもっとも売れているタラモア・デューとジェムソンは業界に先駆けて1974年にコーン・ウィスキーをブレンド、「ノース・アメリカン・ブレンド」と称する軽くて滑らかなライト・ウィスキーを開発。大麦麦芽のみを原料とするスコッチとは異なり、カナディアンやジャパニーズ・ウィスキーと同じ穀物(雑穀)ウィスキーとして人気を博しました。アイリッシュがスコッチと異なる点は、ピートをまったく炊き込まず、原材料を大麦麦芽(モルト)に限らず、大麦、ライ麦、小麦、とうもろこしなども用いるところなのです。
 下って1987年、アイルランド共和国と北アイルランドの境界線に近く、ダンダルクのリヴァースタウンに独立系のクーリー蒸留所が創設されました。クーリーは伝統的な製法を踏襲、麦芽にピートを炊き込み、二回蒸留を施します。手法としてはほとんどスコッチと同じで、自己主張を持つモルトをつくりはじめました。1994年発売のブレンデッド・ウィスキー「ミラーズ・スペシャル・リザーヴ」の他、カネマラ、ティルコネル、ロックスなどのシングル・モルトを陸続とボトリング、2000年には樽出しのシングル・カスク「リムラック」を発売するに至ったのです。愛飲家が求める伝統的なアイリッシュ・ウィスキーは70年代半ばまでにボトリングされたものに限られ、いずれもが高値で取引されています。従って、アイリッシュ・ウィスキーの浮沈はクーリー蒸留所のこれからの活躍にすべてがかけられているのです。「スランジバー」と叫びたくなるようなアイリッシュ・ウィスキーの誕生に立ち会う日が近くやってきます。佐々木さんと私はそれを待ち望んでいるのです。 



投稿者: 一考    日時: 2003年03月20日 00:32 | 固定ページリンク





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