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一考 | 編集者

 高遠弘美さんへ
 あれほど地中海をいとおしまれた窪田般彌さんがかくまで暗い詩を著すとは意外でした。実はあの詩集が発送されたあと、相澤啓三さんが店へいらっしゃいました。『老梅に寄せて』の消息を確かめに来られたのです。おおよそのところを説明させていただきましたが、淋しいことでございます。
 以前、書肆山田をもっともラジカルな出版社と書きましたが、編集者として、時代の証言者としてのあのお二方の仕事には頭が下がる思いです。窪田般彌さん同様、大泉史世さんの身体もぼろぼろだと思われるのですが。
 いま貴方に果敢にチャレンジなさっている編集者もすぐれた人です。お仕着せではなく、こころざしで仕事に立ち向かっていらっしゃいます。こころざしとは時代を先取りすることでも肯うことでもなく、時代と烈しく斬り結ぶことです。時として対象をまた自らを拒否し、結果としていずこかへ突き落とすようなこともございます。
 ゲーテやガイガの主観主義や享楽主義に対する非難を持ちだすまでもなく、ディレッタンティスムは諸刃の剣です。ひとりよがりに陥る危険性を回避する手立ては懐疑しかございません。聡明な貴方にこのような野暮なことを申し上げるのは恐縮なのですが、それもこれもかの編集者に対して私が抱く友誼の表明に他ならないのです。うつしよに旅人のかすかな息づかいを遺したい、かりそめの華を咲かせたいとの文学への思慕を大事に育もうではありませんか。
 繰り返される日々はこしかたへの一会、帰路を断ち滅びを選んだ旅人たちへの追薦ともなるものだけが世にのこされてあれ、と思う次第です。



投稿者: 一考    日時: 2002年12月20日 12:08 | 固定ページリンク





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