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一考 | 勝井隆則さんのことなど

 やっきさんへ
 種村さんとの対談の中で、話題は芝公園で野たれ死にした作家藤澤清造に及びました。その時、私も君もひどい生活だったが、もっと壮絶な暮らしをしている出版人がいる。それは金沢の勝井隆則さんであり、「藤澤清造貧困小説集」の刊行者であると教えられました。種村さんが金沢で倒れし折の見舞客の一人ですが、以降お付き合いは続いているという。
 聞き通いによると、勝井さんは法政大学を卒業後、郷里の金沢へ帰り、亀鳴屋と号する出版社を一人で営んでいる。今なお、「蛍の光 窓の雪」を地でゆく家に女房と住み、テレビはなく、窓にガラスの痕跡すらなく、冬ともなれば家の中を吹雪が舞うにまかせるとの風流な暮らしぶり。今回上梓された「藤澤清造貧困小説集」にしてからが、刷り部数を500に限り頒価は2800円、締めて140万円じゃないですか。それでは全冊完売しても制作原価がかろうじて賄えるだけ、人件費はおろか、編集費すら出てこない。しかも頒布する書冊は餓死文学叢書とでも名付けるべき代物ばかり。次回配本は、戦後石川県小松市に在住した森山啓の著作と聞きます。森山啓は金歯を売って生活したとの伝説を持つプロレタリア作家です。
 今どき、こんな純な出版人が、しかも地方に居たというのが驚きです。風紋さんの言う、明るい表通りばかりを歩きたがる昨今の表現者や出版人から抜け落ちているのが、こうした不退転の意気込みであり、貧窮をものともしない強靭な精神なのです。物欲にまみれ、日々の金数を求めて蠢くような輩に表現なんざあ出来るわけも御座いません。芝公園でホームレスの頭領になってからでも遅くはないのです。表現者や編輯者に必要なのは不死鳥のように蘇る気力と無頼の精神のみと信じます。いずれにせよ、種村季弘さん推薦の「藤澤清造貧困小説集」を読んで貧困を謳歌しようではないですか。
 書物の佇まい清楚にして申し分なく、手染めの布表紙とつげ義春の絵とのバランスは美事。また、同書の巻末に付された粕井均さんの編纂になる「同時代評・ゴシップ細見」と小幡英典さんの「清造がいた場所」と題するアルバムは逸品。前者は書誌学の範にもすべき必読の文献、生田長江、島崎藤村から遺骨の焼却料を負担した長谷川時雨に至るまで、藤澤清造にまつわる証言と文献を稠密にときほぐし、おのが清造感をそれこそ干鰈を陽に翳すがごとく浮かび上がらせている。かかる書物が藤澤清造を愛する人々によって拵えられたのは何よりの供養。文学史の書き換えに直接結びつく行為のみが出版であるとの勝井隆則さんの身を呈しての異議申し立てに三拝九拝。貴方のような存在こそが私が生き延びるための唯一の糧なのです。
 地方の方は下記住所へご注文を、東京在の方はですぺらへご注文を頂ければ幸甚。ちなみに、ですぺらには取りあえず10冊送付して頂く予定です。

  「藤澤清造貧困小説集」亀鳴屋本第二冊目 限定500部 頒価2800円
   亀鳴屋 石川県金沢市大和町3-39



投稿者: 一考    日時: 2001年11月21日 21:09 | 固定ページリンク





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