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一考 | ドブ板の下の蟋蟀

 「壁のなかから汝を窺うひとつの目」ですね。バルビュスのいう「地獄」ですよ。
 ところで、拙宅の庭で毎年バッタとカマキリがお産をするのです。バッタは正確にはショウリョウバッタモドキ(擬精霊蝗)です。それがカマキリを惧れてか、バッタの出産が年々遅くなるように思っていました。ところが、今年はあまりにバッタの出現が遅れ、十月末にはコオロギと共生するようになってしまいました。
 小さな雄が雌の背に乗って飛び跳ねるところをコオロギが襲うのです。コオロギは鳴きますが、ショウリョウバッタモドキは鳴きません。昆虫の世界に限りませんが、鳴くという行為は縄張り(テリトリー)を主張したり、喧嘩をしたり、雌を交尾に誘ったりと、したごころが見え見えなのです。声もなく追い払われ、ショウリョウバッタモドキは陽の当たらない裏庭への亡命を余儀なくされるのです。そんなときですね、昆虫の世界にもドゥルーズが必要だなあと思うのです。
 板前をしていた頃、石鯛や石垣鯛が生け簀のなかでハマチを襲うのを何度も見ました。もともと岩礁にすみつき、堅い歯でサザエ、アワビ、ウニ、フジツボ、カニなどをかみ砕いて食べる魚ですから獰猛なのですが、あいつは鱧と同じく、ひとの指をも食いちぎってしまいます。
 コオロギは昔は古保呂岐とも書きました。その名のとおり濃褐色の悪魔のようなもので、石鯛に似て獰猛です。かつて中国では闘蟋(とうしつ)といって、金を賭けてコオロギを闘わせていました。鼠のヒゲが一本装着された筆で突いてやると、突如噛み合いをはじめるそうです。佐々木幹郎さんというコオロギ学者がいて、嬬恋の彼の山小屋でコオロギを入れるための焼物を見せられました。彼がオポッサムについて書いたのも、闘蟋に用いる筆にはオポッサムのヒゲが最高なのではないかと憶測しているのです。
 さて、「ドブ板の下の蟋蟀」氏ですが、小生もどうやらバンビーで不意に出遇ったように記憶するのです。十代から持ち続けている本など、数えるぐらいしかないのですが、書架に現代思潮社の初版がありました。刊行は1960年6月で、購入は二年後になっています。ということは漆黒のビニール表紙の再版が気に入らなくて、わざわざ真っ白な紙装の初版を探し求めたようです。当時から、いささかの警戒感を持って接していたようです。



投稿者: 一考    日時: 2006年11月27日 21:30 | 固定ページリンク





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