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貴兄の足を損壊させたものとは平成元年にかかわりを断ちました。爾来、酒や烟草を代用品として嗜んでいます。こちらは嗜みですが、前者は嗜みの領域を大きく逸脱します。
酒を飲んで不必要に乱れたり、非論理的になったり、ひとに甘えるのも困りものですが、どのように酔っ払ったところで、二日もすれば酔いはさめます。酒ほど能転気なものはなく、思慮に欠けたものもありますまい。酒は不用意の代表選手のようなもので、その迂闊さゆえに健全かつ健康的な生活のよき伴侶になる側面を併せ持つと思っています。ユベナリスの詩句を揶揄しているのでなく、皮相のはなしをしているのでもありません。ただ、酒ごときで悲壮感を漂わせるような輩に貴兄が体験なさった「ひどい暮らし」は想像だにできないだろうと言いたいのです。
「生活費の売り切れ」といった即物的なものから、不安に嘖まれるといった個別的なものまで、「あまりにひどい暮らし」にはさまざまなファクターが介在します。それを承知の上で、貴兄とのあいだにいささかの隔たりを取ろうと努めてきたように思います。ミシンと蝙蝠傘ならぬ「浮き萍と霰石とがバンビーでの不意の出遇い」ではデュカス氏も合点がいかないのではないかと推察したのです。
時は経回りました。容赦のない残酷な揺籃期は終わり、迂闊さにここちよく身を任せる術を心得ました。貴兄よりごくわずかに早く「これから俺はちゃんと生き」てみようと思ったのです。その結果、酒には幾分こだわりを持つようになりました。
「ユリイカ」のタルホ特集をお読みいただき感謝致しております。貴兄が仰言る「われわれは生きています、これだけでもよしとしよう」そんな思いでの鼎談でございました。
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