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九月のはじめから片頭痛に悩まされてきた。あまりの痛みにエアーサロンパスをこめかみに塗りつけていたが、どうやら逆効果だったようである。治療に用いられる酒石酸エルゴタミンは血管の拡張を抑制する薬だが、サロンパスは促進させる。
10月にはいってからは血圧が異常値を示すようになり、目眩いがはげしくなってきた。バッファリンやアスピリンでは手に負えなくなって、今日は朝から検査を繰り返している。主治医の見立てだと片頭痛ではなく、脳卒中の二大疾患の片割れの疑いが濃厚であるそうな。三時からMRIの検査がはじまる。
一族のほとんどが卒中で死んでいるので、このまま死んだところでそんなものかなと思うだけである。未練や執着はなくはないが、好きな酒や烟草やフェティッシュな下着といった他愛ないものばかりである。
取るにたりない個人的なことはどうでもよい。久しぶりに主治医と話しておもしろかったのは片頭痛と偏頭痛であった。文字を捏ね回す稼業にあるひとは偏頭痛を好んで用いる。しかし、医学上は片頭痛でなければ困るそうである。どうして困るのかはMRIの後で教えていただこうと思っている。
主治医は浦和で開業しているが、南浦和に映像フェチの医師がいてCTスキャンからMRIまで、さまざまな電子機器を備えているのである。主治医の友人で都立豊島病院に重度の痔を抱えてエベレストに登頂した医師がいる。その医師から「どうにもならない立派な痔の持ち主」と褒められたときは嬉しかった。そのような部位に陽が当たるのは滅多にないことである。主治医は石割りの達人で、その道では知られたひとである。単純な骨折なら足も腕も指も自分で修理してきたが、臓物は手に負えない。上京後七年のあいだに三度手術していただいた。
エリザベス・ベニヨンの著書を座右に置くような医師がいる。オタク、マニア、フェチ、どう呼称してもよいのだが、医療機器は高額である。CTスキャンからMRIまでと気楽に書いたが、いずれも数億円の価格帯である。映像フェチの医師と聞かされただけで、背筋がゾクゾクする。どうやら詼諧の検査を楽しめそうである。
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