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一考 | 高橋康夫さんのこと

 高橋貞雄さんへ

 はじめまして。
 高橋さんとは1973年からのお付き合いですが、彼が『吉行淳之介自選作品』と沼正三の『ある夢想家の手帖から』を上梓なさった頃から、特に親しくさせていただきました。それらの著書は色違いの鉛筆による署名本を各五十部、計五百五十部頒けていただきました。そのお礼を兼ねて上京、新宿の池林房で店主の太田篤哉さんと共に酒を酌み交わしたのが、直接お会いしたはじまりでした。たしか、1975年の末だったかと記憶します。
 同じ75年に上梓された『多留保集第五巻 キネマの月巷に昇る春なれば』所収の多田智満子さんのエッセイ「異類の人」は足穂について著された、もっとも美しい文章のひとつだと思っているのですが、それについての語らいが池林房で続けられました。晤語のなかで、高橋さんが神戸の歴史や街並みに詳しいのに驚かされました。『多留保集』にとどまらず、後年『タルホ神戸年代記』などを編まれる彼ならではの気配りの行き届いた知識の一端を垣間見る思いでした。
 一方、高橋さんは「タルホ大好き」を自明の前提とする無批判なエッセイの跳梁を悲しんでおられました。当掲示板でユリイカの足穂特集号について書いてまいりましたが、そのユリイカ誌上、宇野邦一、津原泰水というすぐれた書き手にご登場いただきました。そして、単なるオマージュの時代は終わった、これからは「足穂という作家の弱点の容赦ない指摘が、そのまま足穂という作家のかけがえない価値の発見」に繋がる、とのエッセイをお書きいただきました。宇野さんと津原さんには若干の年齢差があるのですが、世代を超えてふたつのエッセイはシンクロしているのです。高橋さんがきっと小躍りして欣ばれるであろう特集になったのではと思っています。

 1985年に東京中野新橋へ転居してからは屡々酒を酌み交わすようになりました。「いちこうさんも書かなきゃ駄目だよ」と、第三文明や河出書房の編集者を紹介してくださいました。鏡花や足穂についての文章も、彼に背を突かれなければ書かなかったと思うのです。しかし、話題は文学と宗教に限られ、プライベートなお話をした記憶がございません。従って、ご家族についてはなにも存じ上げないのです。これを機に、私が存じ上げない高橋康夫さんの側面をご教示いただければ幸いに存じます。



投稿者: 一考    日時: 2006年07月04日 23:44 | 固定ページリンク





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