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一考 | 電子レンジ

 書いてみるものである。高遠さんと曽利さんから電子レンジありとの連絡を頂戴した、忝なく思う。取敢えず、曽利さん宅の電子レンジを頂戴することになった。明日の夕方にお伺いしますので、どうかよろしくお願い致します。

 私の一族は新しもの好きで、テレビ、電気冷蔵庫、電子計算機、電気式自動ドア、ボウリング、温水プール等々、なんでもかんでも神戸で一番最初を自慢にしていた。小学生の頃にはキャデラックやハーレー・ダヴィッドソンに乗せてもらったし、本体の上に螺旋状の放熱板がついた電気冷蔵庫は町内のひとが列をなして見学に来た。電子計算機は六十センチ角の巨大なものだが、割り算は不可能、値は当時の新車一台分に相当した。自動ドアは入店するお客が優先されるので当然内側へ開く、勘定を済ませた客がドアに激突するのを笑って見ていた記憶がある。一レーンのボーリング設備だったが、西日本では最初のボーリング場で、アメリカから取り寄せたのである。父の長兄は新潟の高田で百貨店を営んでいたが、屋上には日本初のコイン式双眼鏡が設置され、わざわざ新潟まで蒸気機関車に乗ってそれを覗きに行った。高田の家では従兄たちが金属パイプを切断して大砲やピストルを造っていた。もっとも、当時の私は小さいが真物のピストルを所持していた。そのピストル用として少量の火薬を分けていただけたのはうれしかった。とにもかくにも、妙な叔父や叔母に囲まれて育ったようである。
 さて、電子レンジである。私が中学校を卒業して料理人になった昭和三十七年の年末に第一号の電子レンジが発売された。しかし、今様の「使い物」になる電子レンジの誕生はそれから二十年の年月を経てからである。その間にもさまざまな電子レンジを使い潰してきた。メーカーごと、機種ごとに勝手が違う。毎日二十回ぐらい使い続けても慣れるのに二、三箇月は掛かる。鮪のような刺身の解凍がうまくできるようになれば、卒業である。飯を炊くと一食分づつラップでくるんで冷凍庫、肉の薄切りも一枚づつラップで折り畳んで冷凍庫、好物の麺類に用いる薄揚げや葱も刻んで冷凍庫、お好み焼きに用いる筋と菎蒻の煮付けも冷凍庫、拙宅では電子レンジがないと生活が成り立たないのである。敢えて食生活と書かずに生活と書く。読書やもの思いに耽るのが生活とは承知しない、おさんどんこそが生活であり、自らが耽るところの「もの思い」を支える下僕が私自身なのだと心得ている。



投稿者: 一考    日時: 2006年03月30日 20:50 | 固定ページリンク





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