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高遠弘美 | 譬喩

一考様

とりわけて暑い日が続きますが、皆様お元気でお過ごしのことと存じます。
縮緬雑魚について、大言海で調べようと思つたのですが、陋屋に山のやうに積まれた本をどけて大言海までたどり着くことは、この炎暑のなか、到底できることではありませんでした。いづれどなたか篤学の方がお書きくださるでせう。
さて、けふは、『世界の食用昆虫』第三弾(これにて打ち止め)として、いくつかご紹介しておきたませう。
わたくしの亡父(1897-1962)は、生前、まだ幼いわたくしに、「雉はね、白菜の漬け物とピーナッツを一緒に食べたときの味に似てゐるんだよ」と申してをりました。植物が突然鳥の肉の味に変ずる。わたくしはまだ小学生の子供でしたが、そのときはじめて、世界に存在してゐる種々の事物を結びつけるメタフォールといふものがあるのだといふことを実感したと言つてもいいかもしれません。世界には目に見えぬ網が縦横に張り巡らされてゐて、その関係に気づいたとたん、世界は混沌ではなくなる。さう亡父は言ひたかつたのかもしれないと、のちになつて思つたりしました。
面識こそありませんが、外山様の「ひとつひとつの目が、『世間』みたいなものなのですか」といふご発言に感銘を受けたものとしては、『世界の食用昆虫』にみられる譬喩を並べるのも一興かと思つたしだいです。

・ブゴング(かぶら夜蛾に近い夜蛾の一種)の成虫を木の窪みなどに入れ、石で搗いてつくったペーストは、脂肪のかたまりのようで、甘いナッツのような味がする。
・かまきりは、海老と生のマッシュルームを混ぜたような味で、美味である。
・長野県産蝉の缶詰を食べたが、ちょっと海老に似て、なかなか美味であった。
・水虫(風船虫の仲間)の味は、キャビアに似ているという。
・生の髪切り虫の幼虫は、ゼリーがとろけるような感触で、鮪のとろよりこってりしていて、うすい甘味があり、わさび醤油に合う。
・げんごろうは、干し海老のようだという人もいるが、するめのような味がして酒の肴に好適だった。
・象虫を火であぶって食べると、牛の骨髄に似た味がする。
・白蟻は生きているのをそのまま食べる場合が多いが、パイナップルのような風味がある。
・(ここは芥川の「虱」の引用で)「左様さ、油臭い、焼米のやうな味でござらう」(これが芥川の、知らぬがゆゑの形容といふことも今なら察しられますね)
・音楽評論家の藤田光彦氏によると、蛾の味は「チョコレートとヌガーやキャラメルをミックスした」ようなものだという。
・松毛虫の味は、海老と鶏肉を同時に食べるようで、特有の風味があり、たいへん良い。
・紋白蝶の幼虫である青虫のかき揚げは、甘味があって結構食べられた。この甘味は、青虫の腹に一杯つまっていたキャベツによるものらしい。
・根切り虫のローストは、外側はカリカリしていて、内部はスフレのようにねっとりとしており、ハーブのような植物風味がある。
・黄金虫の幼虫のシチューは、ゆでた海老や蟹の肉に似ている。
・飛蝗のスープの作り方は、まず、塩胡椒とおろしたナツメグで味付けをしながら、強火で飛蝗を煮る。時々かき混ぜる。茶色になるまで揚げたパン、またはおもゆと一緒に、煮た飛蝗をすり鉢でつきつぶす。次に鍋に入れ、弱火で、沸騰しないように煮詰める。スープをこして、クルトンを浮かべる。海老のスープのような味がする。


きりがありませんから、このへんにしておきませう。
一考さんの「目玉蜘蛛」はすごい。大いに愉しみました。



投稿者: 高遠弘美    日時: 2004年07月08日 20:47 | 固定ページリンク





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