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一考 | 言論の自由について

 題目は「言論の自由」。例によって宛先不明の海馬のよだれです。
 問題が問題だけに本来なら「言論」の定義からはじめるべきなのですが、この場は掲示板。それに私がぼやきたいのは人生幸朗のそれ。アレオパジティカを持ち出して、「許可なくして印刷する自由」を強く求めて検閲制度に抗した革命詩人の趣旨を陳べたところでさまにもなりますまい。
 さて、ぼやきです。「言論の自由」とは偏にときの権威・権力に対して発せられる少数者の言論にのみ課せられる自由である、と私は信じています。
 公権力に対して、常に懐疑を抱き、反論を試み、もしくは異なる意見の存在を示唆し紹介するのがジャーナリズムの唯一の勤めといえます。それは公権力の暴走への歯止めであると同時に、数を頼みに横車を押そうとする一般大衆への警鐘ともなる筈でした。しかるに「売れれば何でも、といふ目算で動いてゐる」のが現今のジャーナリズム、マスコミの大方です。企業の論理を無反省に持ち込み、大衆に諛い媚を得る時代にあって、林達夫のようなジャーナリストの不在を悲しむのは私ひとりではないと思うのです。
 民主主義の根底をなす近代的人間観においては、人は生まれながらにして自由で平等な存在であり、人はひとしく理性的存在である、という考えを前提としています。かかる合理的・同質的人間観が前提になるところに民主主義の危うさがあります。気候、風土、言語、宗教、民族、階層、階級等々、ひとはさまざまな隔壁や差別のなかで生きています。それら強いられた条件を抜きに合理的・同質的人間観を描かれるという論拠があればお目に掛かりたいものです。また、アメリカやイスラエルのようなテロ国家のどこをもって理性的と云えばよろしいのか。
 多数意見が少数意見よりも原則的に優れているという仮説が成り立つためには強行採決などという愚挙はあってはならないのです。ところが、わが邦の議会では強行採決が繰り返されます。国会の現況は多数の横暴以外のなにものでもなく、少なくとも民主的な国家とはほど遠いものです。またそれを承知で、コイズミを支持し、グッズを買い集めるような国民を何故に理性的存在として認めなければならないのでしょうか。
 「言論の自由」を護るために私は過去二度公権力と闘いました。内容証明の遣り取りや告訴合戦なら実に多くの経験をさせられました。公権力との闘いは疲れます。警察の家宅捜査が這入り、やがては税務署の査察がはいります。今ではさすがにそこまでの虐めはなくなったようですが、七十年代の終わりまではお上に楯突くには生活を捨て去る覚悟が必要だったのです。先に「課せられる自由」と述べたのはその責任の取り様を指してのことなのです。匿名の発言を私が非難する理由も同じです。「課せられる」もの、すなわち「責任」がないところに「自由」はなく、闘わずして「言論の自由」など得られるはずはないからです。ミルトンの「アレオパジティカ」からジャン・ジュネの「シャティラの四時間」や「恋する虜」に至るまで「言論の自由、人間の平等、精神の自由」のために多くの作家たちが血を流してきました。そしておそらく、そのような「自由」が地上に存在したためしはない、と私は思うのです。
 「地上に存在したためしはない」その可能性をさらに遠ざけたのがインターネットではないでしょうか。よちよち歩きの新しいメディアの今後を断定することはできません。ただ、私はその危険性を示唆しておきたいのです。テレヴィジョンと同じ、苦難の道をこれからインターネットも歩みます。もっかのところは、マイナス面が目立ちます。例えば「個人の勝手」と「言論の自由」とが「匿名」との鎧をまとい、二人三脚で押し寄せてくるように思うのです。ネット上の意見が多数であれば、それは屋上屋を架すまでのはなしであって、あまりに喧しくなったとき、その「言論」は「暴力」と化します。先に「権力に対して発せられる少数者の言論」と限定づけたのは、いかに立派な文言であっても、それが多数派の意見であれば所詮は鸚鵡よく言えども飛鳥を離れずに同じく。また体制迎合の言説であれば、「恥づべき」ものと判断するしかないのです。
 言うまでもないのですが、たとえネット上の発言が言葉の暴力という他ない民度の低いものであっても、それが理由の検閲に私は反対します。検閲制度はかならず公権力に利用されるからです。ネット社会の誕生と共に派生した言葉の暴力といかにして闘うか、個の尊厳や著作権にとどまらず、日常の名誉毀損やプライベートなことがらを守るための厳正な法整備が急がれます。



投稿者: 一考    日時: 2004年06月23日 00:41 | 固定ページリンク





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