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りきさんへ
椿実の名は上林澄雄の「悪魔とピアノを連弾した大学生」と共に北鎌倉の澁澤邸でなんどか聞かされました。三十年ほど昔の話です。
当時、購入した「第十四次新思潮」を私は今でも所持していますが、第二号に掲げられた「メーゾン・ベルビウ地帯」には驚嘆させられました。雑誌については幻想文学で書きましたので繰り返しませんが、「桜の木には桜の臭、椎の木には椎の匂、そして私も女も植物なのであった」との書き出しに激しく魅了されたのを思い出します。
メーゾン・ベルビウは上野池之端七軒町の椿さんの実家に近く、実際に存在したアパートの名であると、これは中井英夫さんから教わりました。中井さんに「ある苦さについて」と題するエッセイがあり、「それはいちめんの夕映えを映して流れる川のように、金も紅もオリーブも紫もいっしょくたに輝く不思議な小説だった」とのくだりがあります。その「いっしょくた」との部分に揺さぶられたのです。楚々とした衒学趣味とロマンティシズムの交錯する椿さんの小説は、弁証法というよりはある種、思考の酩酊のようなものをもたらすのが常でした。
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