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一考 | 黒木書店

 銀花88号で神戸について書いた記憶があったのですが、その一部分に黒木書店に触れての文章がありました。薫子さんが打ち込んでくださったので、ここへ転載しておきます。

 「海港詩人倶楽部」に代表される神戸のモダニズム文学を語ろうとすると、元町の黒木書店の親父の顔が目に浮かぶ。もっとも、黒木正男さんの風□をもって当世風とはいえない。長い眉の下、狷介なまなざしは常に正面上方に据えられ、口は真一文字に結ばれている。いわば古武士の趣があり、石川淳に極めて似ているのである。この親父、単なる古本屋の店主と思って油断するとひどい竹篦返しを喰らう。棚に並べられた書冊はすべて親父の目をくぐったものと思って間違いない。何故なら、自らが評価に価しないと信じた作家の本は、たとえ売れ筋のものであっても断じて店には置かないからである。真一文字の唇と著したが、その状態ではなんら問題はない。しかし、その口がひらかれる時は要注意である。毒舌が飛び交い、客が店から追い出される予告に違いないからだ。そういう現場を私は何度も目にしてきた。従って、この店でコーヒーを振舞われるのは容易ではない。その大事の最中に、ゆくりなくも私は学校では教わらないことを多く学んだ。
 十一谷義三郎は元町のヴィスコンティであり、稲垣足穂は子午線の天文館館長、竹中郁はドテ(新開地のこと)の手品師、増田篤夫は平野のアストラカン、西東三鬼は、トア・ロードのホテルマンetc……中学生だった私を相手に、黒木さんは本読みの楽しみと愁いを、過不足なく教えて下さった。実に、私は黒木さんの謀に乗せられて書物の世界に迷い込んだのである。



投稿者: 一考    日時: 2006年08月16日 21:29 | 固定ページリンク





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