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高遠弘美 | 鍛冶多恵さま

鍛冶多恵様

ですぺら掲示板を再度お借りして、先日亡くなられた国立文楽劇場支配人であられた古谷忠弘さんのお嬢様に、そしてご遺族の方々に改めてご挨拶申し上げます。わたくしは仏文学を看板に挙げてゐるものの、単に仏語のABCを教へてゐるだけのしがない大学教師に過ぎません。文楽につきましても、どの附く素人でしかありません。ただ、ご縁あつて住大夫師のご公演のたびごとに「追ひかけ」をし、住大夫師のご謦咳に触れることを何よりの生き甲斐にしてゐる者でございます。
古谷忠弘さんはそんなわたくしの気持ちをいつもお汲み取り下さり、住大夫師が舞台左手で語られる妹背山のやうなときは中央より左寄りに、舞台右手で語られるときは右よりの、しかもそれぞれ一番舞台と住大夫師と錦糸さんを味はふのにふさはしい席をおとりくださいました。東京国立でも地方公演でも、住大夫師にチケットをお願ひしてをりますのに、大阪だけは古谷さんにお願ひするといふのがわたくしの常でございました。大阪のロビーでお礼を申し上げるたびに古谷さんはあの、誰をも魅了せずにはゐない笑顔を湛へられて「いやあ、いつも早く頼んでくれるから全然大変ではないんですよ。これからもいつでもどうぞ」と繰り返すばかりで、わたくしはただひたすら恐縮するばかりでした。11月の大阪公演は、最初ご遠慮しようと思つてをりました。わたくしどもの稼業は実は11月が滅法忙しく、土日もないほどに予定がつまります。授業を休むわけにはゆきませぬから、諦めてをりました。しかし、住大夫師の山科閑居です。もう何度も聴いてはゐる演目ながら、ぜひまた聴きたいといふ思ひがつのり、古谷さんにメールでお願ひいたしました。10月の半ば。お嬢様がお書きになつてをられるところでは、「急に食事が摂れなくなり」といふ時期だつたのでせう。当然お返事はなく、何とも悟らぬ鈍きわたくしは文楽劇場に電話をかけました。古谷さん、いらつしやいますかといふこちらの言葉に、「いまお休みをとつてゐます」とのおこたへ。まさか、まさか御病気がそこまで篤いとは思ひもよらず、夏休みを今頃おとりなのだらうなどと暢気に構へてをりました。そのことだけでも万死に値するやうなものです。ここにて鍛冶多恵さまとご遺族には心よりお詫び申し上げます。
古谷忠弘さんは、文楽を心から愛されてをりました。片言隻語でそれと知れました。わたくしなど、古谷さんの前では文楽が好きだなどとよくも申せたものと反省してゐます。
古谷さんのやうな方がいらしたからこそ、文楽は今の繁栄にいたつたのではないでせうか。
いくら連ねてもご遺族のお悲しみの癒えることはないと痛いほど知りつつ、せめてそのことだけは何度でも繰り返して、拙き筆を擱かせて戴きます。
インターネットの掲示板で、このやうなことをしたためることを赦して頂くとともに、管理人の桜井様、そしてですぺらの一考さんに心より感謝申し上げます。
末尾ながら、古谷忠弘さんのご冥福を今一度心底念じをります。
高遠弘美



投稿者: 高遠弘美    日時: 2004年11月06日 21:52 | 固定ページリンク





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