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一考 | 甘藍の詩

 高遠弘美さんへ
 「譬喩」はおもしろい。一部、ウィスキーの香味の表現に使えますので、掻払わせていただきます。
 秩序嫌いの私には世界は混沌のままの方がよいのですが、隠喩、暗喩に見られる直接対象物に属性を移しての文言には大いに惹かれます。属性の転移の妙味にまず目を見張るわけですが、その属性がさらに別な属性に変態してゆく、言い換えれば、対象につかず離れず、気づいたときはそれを越えてしまっている、というオチにメタフォールの醍醐味があるのではないかと思うのです。
 属性の転移を、自在な組み合わせ、野放図な取合わせ、デペイズマン等、いかように申してもよろしいのですが、私の好みを優先させれば、折衷、いろどりの方が座りがよろしいかと。ローストされた根切り虫や青虫のかき揚げはいうにおよばず、ブゴングの毳々しい装いとペーストされたときの滑らかなクリーム色に思いを致せば、隠喩とは醜いもの、不器量なものたちが飾る綺羅であり、競い合う華麗そのものではなかったかと思われます。おそらく、醜怪なものを対象物に撰んだほうが劇的なエフェクトが容易に得られる、ということに表現者は古くから通じていたのでしょう。古代ローマの庭園に設けられたグロッタからシェイクスピア、あるいはザムザの物語から幻の猫にいたるまで、彼等は「縦横に張り巡らされた目に見えぬ網」のすぐれた利用者であり、遣い手であったと申せましょう。

・紋白蝶の幼虫である青虫のかき揚げは、甘味があって結構食べられた。この甘味は、青虫の腹に一杯つまっていたキャベツによるものらしい。

 ここに見受けられる甘味を介在させての属性の変態。おそらく、ここから先の領域に詩歌があると思うのです。当然、著されるのは甘藍の詩になります。否、甘藍を通り越して、さらに仰々しく風変わりな毒虫の詩になるかもしれないのです。そこのところの詐欺的と云いますか、いい加減さがたまらない快感を私にもたらすのです。

追記。文中「長野県産蝉の缶詰」とあるのは「長野県産蝉の幼虫の缶詰」の間違いかと思いますが。  高遠弘美さんへ
 「譬喩」はおもしろい。一部、ウィスキーの香味の表現に使えますので、掻払わせていただきます。
 秩序嫌いの私には世界は混沌のままの方がよいのですが、隠喩、暗喩に見られる直接対象物に属性を移しての文言には大いに惹かれます。属性の転移の妙味にまず目を見張るわけですが、その属性がさらに別な属性に変態してゆく、言い換えれば、対象につかず離れず、気づいたときはそれを越えてしまっている、というオチにメタフォールの醍醐味があるのではないかと思うのです。
 属性の転移を、自在な組み合わせ、野放図な取合わせ、デペイズマン等、いかように申してもよろしいのですが、私の好みを優先させれば、折衷、いろどりの方が座りがよろしいかと。ローストされた根切り虫や青虫のかき揚げはいうにおよばず、ブゴングの毳々しい装いとペーストされたときの滑らかなクリーム色に思いを致せば、隠喩とは醜いもの、不器量なものたちが飾る綺羅であり、競い合う華麗そのものではなかったかと思われます。おそらく、醜怪なものを対象物に撰んだほうが劇的なエフェクトが容易に得られる、ということに表現者は古くから通じていたのでしょう。古代ローマの庭園に設けられたグロッタからシェイクスピア、あるいはザムザの物語から幻の猫にいたるまで、彼等は「縦横に張り巡らされた目に見えぬ網」のすぐれた利用者であり、遣い手であったと申せましょう。

・紋白蝶の幼虫である青虫のかき揚げは、甘味があって結構食べられた。この甘味は、青虫の腹に一杯つまっていたキャベツによるものらしい。

 ここに見受けられる甘味を介在させての属性の変態。おそらく、ここから先の領域に詩歌があると思うのです。当然、著されるのは甘藍の詩になります。否、甘藍を通り越して、さらに仰々しく風変わりな毒虫の詩になるかもしれないのです。そこのところの詐欺的と云いますか、いい加減さがたまらない快感を私にもたらすのです。

追記。文中「長野県産蝉の缶詰」とあるのは「長野県産蝉の幼虫の缶詰」の間違いかと思いますが。



投稿者: 一考    日時: 2004年07月10日 00:14 | 固定ページリンク





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