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高遠弘美 | ある俳優・演出家の死

ほとんど私事に近いことを書き連ねることをおゆるし下さい。
動顛してゐるので、ひどい文章になることもあはせてご寛恕ください。
かつて、お互ひに親友だと言ひあつてゐたフランスの友人が亡くなっつてゐたことをさきほど、知りました。
1999年から2000年にかけて7ヶ月ほどフランスのリヨン大学に在外研究員としてに滞在してゐたとき、パリの自宅に何度か電話したのですが、いつも女性が出て、今はゐないといふ一点張りでした。その後たまたまフランスにゆく機会を逸してゐるあひだに、彼は世を去りました。2002年8月28日。
Jacques Ardouin。ジャック・アルドゥワン。演出家・脚本家・劇作家・俳優。そして私の最愛のフランス人の友人でした。享年64歳。死因は癌。ソフィー・マルソーの映画「ラ・ブーム」などにも出てゐましたが、何よりも舞台のひとでした。パリのモンパルナス近くのリュセルネール座で「星の王子様」の脚本・演出・主演をしてゐました。
私が最初に知り合つたのは、1989年。あるフランスの女性の友達の紹介でした。その晩「星の王子様」をみたあと、食事をし、すぐに意気投合。友人の女性が帰つたあとも朝まで飲み明かしました。それ以来、パリでも東京でも何度も飲み明かし、お互ひがお互ひをどれほど大切かを痛感してゐたのです。芝居を観にゆくときはいつも「お前のためにするからよく観ていろよ」と言つてゐました。あるとき、パリでのことですが、やはり朝まで飲み明かしてゐるとき、突然ジャックが言ひました。「お前は本当は誰だい?」。私がふざけて、ぼくは日本人でこれこれでと今更のやうに言ふと、ジャックは「お前が日本人かどうかはどうでもいい。お前は俺が心から信頼する人間のひとりだ。どうだ、このままフランスに残つて俺と一緒に芝居をやらないか」と言つたのです。私がそんなことができるわけがないといふと「いや、お前と俺ならできる。セーヌ川に沿つて小さな町の小さな芝居小屋をまはるつてのはどうだ。愉しいぞ」と言ふ。もちろん、私の貧弱な語学力ではそんなことは無理な話ですが、いまでもそのときウイと言つてゐたらどうなつたらうと夢物語で思ふことがあります。ジャックに対してほど、私がフランス語を外国語として束縛に思はずに喋つたことはなかつたし、もうこれからは絶対にあり得ないでせう。生涯に出会つたもつとも大切な友人をなくした喪失感が今の私を苦しめます。せめて2001年にでもフランスにいつてゐればよかつたと臍をかむのみ。後悔先に立たず。孔子がいつたといふ天喪予の叫びをこころのうちで叫ぶことしかできません。せめてもこの掲示板に書かせて頂き、ジャックと私の友情のよすがとしたいと思つた次第です。勝手な書き込みをどうかご海容ください。



投稿者: 高遠弘美    日時: 2004年06月17日 23:37 | 固定ページリンク





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