●ですぺらモルト会九月

 

アイル・オブ・アラン(4年)※ アイランズ

 シェリー・カスクの4年もの、43度。6樽のリミテッド・エディション。
 アラン蒸留所は1995年夏の創業。最も新しいディステラリー。1830年代までアラン島には蒸留所があったので、160年ぶりの復活である。ちなみに、シングの著した愛蘭土のアラン島ではなく、キンタイア半島の東側に位置するアラン島である。蒸留所はアラン島の北岸、ロックランザ村のはずれに建てられている。
 当初は1〜2年ものをスピリッツとしてボトリングしていたが、現在ではシングル・モルト、ヴァッテド・モルト、ブレンデッド・ウィスキーなど各種ウィスキーを独自のラベルで生産している。ブレンデッド・ウィスキー「グレン・ローザ」のピュアモルトも頒布されている。
 スピリッツとして発売された1年もの以降、毎年ボトリングされているため、熟成の過程をつぶさに知ることができる。インデペンデント・ボトラーのものではブラックアダー社から96年蒸留の6年ものカスク・ストレングスがロックランザのブランドで頒されたのみ。

アードベッグ('90 ダグラス・マクギボン)アイラ

 プロヴァナンスの10年もの、バーボン・カスクの43度。
 頗るユニークにして、かつ巧緻な味わいのアードベッグ。微かなバニラ香を持つミディアム・ボディ。口に含むと甘いフローラルな味わい。ただし、ラスト・ノートは正真のアードベッグ。ゴードン&マクファイル社のコニッサーズ・チョイスと比してはるかにソルティー、長く続くフィニッシュは申し分なし。
 フロア・モルティングが最後に行われたのは1976年から77年にかけてであり、80年代の閉鎖期間の後はポート・エレンが供給する麦芽を用う。木の幹をかじるようなスモーキー・フレーバは望むべくもないが、前述のフローラルな香りは思いもかけない拾いもの。
 89年に操業を再開したものの、フロア・モルティングは廃止。97年にはアライド・ディスティラーズ社からグレンモーレンジ社の傘下に入った。伝統の風味への影響が懸念されたが杞憂に終わり、フロア・モルティングも再開。特にヘビーにピートを焚き込んだ麦芽を用いたモルト・ウィスキーの登場が待たれる。

アベラワー('90 ドナート)スペイサイド

 ダン・イーディアンの一本。10年もの、46度。550本のリミテッド・エディション。
 フランスで根強い人気を持つ軽快なモルト。加水すると柑橘系のフルーティーな香りが立ち昇る。ラム・レーズンの淡い香りとチョコレートのアロマ、琥珀のような透明感のある甘口。わが邦でいえばティー・キャンディの「純露」のような甘さ。とめどなく拡がる芳醇なバニラ香とまろやかな喉ごしはニート(水を加えない)がお奨め。くつろぎの一本。
 蒸留所はヴィクトリア朝の美しい建物。モルトもまた、その佇まいに似て、華麗なシェリー香が顕著。酒質は軽いが甘口のため食後酒に。
 ウィスク・イーの土屋守コレクション、クライズデール社、ケイデンヘッド社、スコッチ・モルト・セールス社、ブラックアダー社、ボトラーズ社からカスク・ストレングスが、ダグラス・レイン社からプリファード・ストレングスが、シグナトリー社、ドナート社、ムーン・インポート社、リキッド・ゴールド社、ロンバード社から加水タイプがボトリングされている。

アルタナベーン('89 グレン・アラン)スペイサイド

 10年もの、43度。
 同時頒布にグレンバーギ11年があり、シーバスとバランタインの原種モルトを並べて味わうことが可能になった。  ミディアム・スイート、軽くドライな味わい。アルコール臭と蜂蜜の香りが錯綜。口に含むと幾分苦みが感じられる。フィニッシュは浅く、ややスモーキー。
 兄弟蒸留所のブレイズ・オブ・グレンリヴェット同様、シーバスの原酒モルトの確保のため、1970年代に相次いでオープン。シングル・モルトとして頒されることはなく、ごく僅かな量が瓶詰業者のボトルとして出回っている。
 ケイデンヘッド社からカスク・ストレングスが、ダグラス・レイン社とジョン・ミルロイ社からプリファード・ストレングスが、シグナトリー社から加水タイプとカスク・ストレングスがボトリングされている。

オルトモーア('89 ジョン・ミルロイ)スペイサイド

 ミレニアム・セレクションの10年もの、50度のプリファード・ストレングス。シングル・カスク。
 徐光液を想わせる特異な香り。ココナツや胡桃をすりつぶしたオイリーな味わい。フィニッシュは濃厚で、わずかに苦みを伴う。ディスティラリー・ボトルと比して特異な香りは同じだが、そこはかとなく漂う甘味が爽やかな飲み口を誘う。まずまずの出来映え。
 キース地区を代表する食前酒とされるが、モルトの淡黄色からは想像もつかぬ癖の強さを持っている。デュワーズとロバート・ハーベイの原酒モルト。  
 アデルフィ社とイアン・マキロップ社からカスク・ストレングスが、ゴードン&マクファイル社とサマローリ社から加水タイプが、ユナイテッド・ディスティラーズ社からは二種類のカスク・ストレングスと加水タイプがボトリングされている。

バルヴィニー(10年)※ スペイサイド

 ファウンダーズ・リザーヴと題する10年もの、43度のディスティラリー・ボトル。
 麦はすべて自家栽培、現在なお、フロア・モルティングを行う数少ない蒸留所のひとつ。5世代にわたる家族経営にて、モルト担当が4人、マッシュ担当が3人、タンルーム3人、スティルマンが3人の計13人ですべてのモルト・ウィスキーを醸す。
 グレンフィディックとは兄弟蒸留所だが、「フィディックが二級酒とするならば、バルヴィニーは大吟醸」とは土屋守さんの著すところ。加水にもバランスを崩さない腰の強さが身上。スペイサイドのみならず、スコットランドのすべてのモルトを代表する酒のひとつ。
 ディスティラリー・ボトルには、ファウンダーズ・リザーヴ10年、ダブルウッド12年、シングルバレル15年、アイラ・カスク・フィニッシュ17年、ポート・ウッド21年、他に25年、32年、38年ものなどヴィンテージ・シングル・カスクがあるが、すべて製法が異なる。職人の妙技と芸の細やかさに脱帽。かかるこだわりこそが、愛飲家の耳目を峙たせる。

マノックモア('90 ダグラス・マクギボン)スペイサイド

 プロヴァナンスの一本。10年もの、43度。
 ダグラス・マクギボン社は1949年の設立。創業以来、ノーカラーリング、ノーチルフィルターを貫いている。蒸留された季節によって色の異なるラベルにテイスティング・ノートが著されている。
 1989年に操業再開。グレンロッシーとは兄弟蒸留所。共にヘイグとディンプルの重要な原酒モルト。蒸留所の近辺には多くの丘や森が点在し、野鳥の宝庫として識られる。
 樽の内側の焦がし方が尋常でなく、ウィスキーの色合いを濃厚にする要因となっている。フレッシュでクリーン、絶妙の軽み。青い果実、シリアル系の香り。フィニッシュにシナモンの香、暖かみのある切れ上がりを経て、心地よいラスト・ノート。
 イアン・マキロップ社とイアン・マクロード社からカスク・ストレングスが、ゴードン&マクファイル社から加水タイプが、ユナイテッド・ディスティラーズ社から両タイプがボトリングされている。

グレン・アルビン('77 シグナトリー)ハイランド

 オーク樽による21年もの、43度、限定402本のシングル・カスク。
 胡椒のキャラクター、フィニッシュは頗るドライ。
 ネス湖の畔、ウィスキー産業の中心地として栄えたインヴァネスには多くの蒸留があったが、時と共に廃れ、最後まで残っていたグレン・アルビン、グレン・モール、ミルバーンも80年代に相次いで閉鎖。グレン・アルビンは83年に操業停止、88年には蒸留所も完全に取り壊された。
 キングスバリー社、ダグラス・レイン社、ブラックアダー社、イアン・マキロップ社からカスク・ストレングスが、ゴードン&マクファイル社とヴィンテージ・モルト社から加水タイプが、シグナトリー社からは両タイプがボトリングされている。

ベン・ネヴィス('84 ブラックアダー)ハイランド

 シェリー・バットの13年もの、43度のシングル・カスク。
 香りからフィニッシュに至るまで、起承転結のないモルト。89年にニッカウヰスキーが買収、今後に期待。なお、同名のブレンデッド・ウィスキーも頒されているので注意。
 ディスティラリー・ボトルは10年、12年のほか、71年から75年までの各種カスク・ストレングスが頒布されている。ただし、12年ものは現在では入手不可。
 カレドニアン・コネクションズ社、ケイデンヘッド社、ハイ・スピリッツ・コレクション社、イアン・マキロップ社、マッカーサー社からカスク・ストレングスが、ダグラス・レイン社からプリファード・ストレングスが、シグナトリー社とブラックアダー社からはカスク・ストレングスと加水タイプがボトリングされている。

ロイヤル・ロッホナガー('73 ダグラス・レイン)ハイランド

 オールド・モルト・カスクの一本。29年もの、50.0度のプリファード・ストレングス。限定276本のシングル・カスク。
 ヴィクトリア女王が愛飲した王室御用達ウィスキー。気稟のよさを感じさせる清冽かつ閑雅な味わい。VAT69やジョン・ベグ・ブルーキャップの原酒モルト。スムースかつクリーミーなフル・ボディ。ペパーミントのエレガントにして涼やかな香り。フィニッシュはややドライ、暖かみのある切れ上がりが長く続く。
 ディスティラリー・ボトルは12年ものとセレクテッド・リザーヴと名付けられたノーエイジの二種類。ダグラス・レイン社から71年と73年蒸留のカスク・ストレングスが、ユナイテッド・ディスティラーズ社から72年と73年蒸留のカスク・ストレングスがボトリングされている。