●ですぺらモルト会八月

 

ブルイックラディ('86 ブラックアダー)アイラ

 オーク樽の12年もの、57.3度のカスク・ストレングスにしてシングル・カスク。
 他のアイラ・モルトと比して、際立ってクリーンなモルトであり、口当たりは柔らかくドライ。バランスの良さは結構だが、いまいち個性に欠ける。突然の操業停止に見舞われ、95年1月に閉鎖されたが、2001年5月21日に操業を再開。ジム・ビーム・ブランド社からマーレイ・マクデヴィッド社へオーナーがかわり、新しいディスティラリー・ボトルはすべて46度、ナチュラル・カラーにしてノン・チル・フィルターのウィスキーに生まれ変わった。
 ラム・レーズンの甘く揺らめく香り。水で薄めると潮の香が微かに立ち昇る。フィニッシュはドライ、暖かみのある切れ上がりを経てスイートに。
 スコットランドは西の端に位置する蒸留所。アイラ・モルトの中でもっとも軽く、繊細なキャラクターを持った食前酒。蒸留所名はゲール語でブルア・ホラディッヒと発音、海辺の意。ロッホインダールと名付けられたインデペンデント・ボトルも数種類頒されている。ちなみに、ロッホインダールとはブルイックラディ蒸留所からさらに西へ2マイル、ポート・シャーロッテにかつて在した蒸留所の名前。独立瓶詰業者ダグラス・マクギボン社の2人のオーナーの祖父がマッシュ・ハウスを担当していた蒸留所である。
 なお、旧オーナーのインヴァーゴードン社の在庫がドル・シャン・アイラの名でボトリングされている。

オスロスク(グレンヒース)(10年 スコッチ・モルト・セールス)スペイサイド

 10年もの、40度。中味はオスロスク。
 かつて、グレン・マレイを核とした同名のピュア・モルト・ウィスキーが頒されていたが、本品は全く異なる。オスロスク蒸留所のシングル・モルト3樽をボトリング。1000本のリミテッド・エディション。
 ディスティラリー・ボトルと比してまろやかさ、潤沢なこくと味わいで優る。色は淡く、カラメル香もなく、シェリー酒のテイストが濃厚。  蒸留所の創業は1974年と新しいが、既に数々の品評会で受賞し、国際的な名声を得ている。クラガンモアと共に、スペイサイドのよさをすべて備えた銘酒。ディスティラリー・ボトルは「シングルトン」のブランドでボトリングされていたが、2002年よりユナイテッド・ディスティラーズ社の「オスロスク10年」に変更された。
 イアン・マクロード゙社からポート・フィニッシュの11年もの、ケイデンヘッド社のオリジナル・コレクションからシェリー・ウッドの10年ものが、他のボトラーではドナート社のダン・イーディアンとマーレイ・マクデヴィッド社から加水タイプのボトルが頒布されている。また、ダグラス・マクギボン社、ダグラス・レイン社、ケイデンヘッド社のオーセンティック・コレクションから数種のカスク・ストレングスが頒布されている。

グレンファークラス(10年 シールダイク)スペイサイド

 ウィリアム・マックスウェル社のリリースになるグレンファークラス。43度。
 シールダイグとは西ハイランドにある風光明媚な漁村。アルマニャックのボトルを用い、ギフト用として仏蘭西国内で販売されている。マックスウェル社はイアン・マクロード社と同資本のカンパニー。熟成にシェリー樽を用いないため、ずんと辛口。ディスティラリー・ボトルとは全く異なる香味を持つ。
 マッカランと同じく、すべてのモルトはシェリー樽で熟成。熟成期間が永くなるほど、フルーティーな香りとフィニッシュの濃密さが増し、味わい深くなっていく。蒸留所の弁によると、8年で完成の域に達し、15年が熟成のピーク、後は枯淡の領域に入っていくとの由。スコットランドのみならず、最近では欧米や豪州でも人気が高まっている。ちなみに、サッチャー前首相も愛好家であるとか。
 数多ある銘酒の中でも伝統へのこだわりを追求した、スペイサイド入魂のフル・ボディ。微かなピート香ととろりとしたきめ細やかな舌触り。加水に耐える腰の強さ。甘味の残る醇々たるフィニッシュ。
 なお、仏蘭西のボルドーで独逸人が営むワイン商メーラー・ベッセ社のボトルが2002年に頒布されている。88年蒸留のフレンチ・シェリー・バット、同年蒸留のダーク・オロロソ・シェリーとマンザニラ・シェリー、81年と79年蒸留のポート・パイプ熟成の五種類のボトルが頒されている。樽のコンディションがよく、いずれもが美味。年に一度の稀にみる傑作である。

グレンフィディック・ソレラ・リザーヴ(15年)※ スペイサイド

 43度のディスティラリー・ボトル。
 世界で飲まれているシングル・モルトの3本に1本はグレンフィディックと言われる。ことほどさように人気があり、入手しやすい銘柄である。ボトルの形状がトライアングルをなすことを除けば、不偏不倚で過不及のないことを唯一の持ち分とする、謂わば日本人向けのモルト風味のウィスキー。
 シェリー酒の熟成に用いられるソレラ・システムを利用。些かでも複雑な味わいを加味しようとの努力は評価できる。
 数多くのディスティラリー・ボトルが頒布されているが、インデペンデント・ボトラーのそれは珍しく、ケイデンヘッド社からボトリングされた66年蒸留の35年ものカスク・ストレングスぐらいなもの。

グレンロセス('90 ダグラス・マクギボン)スペイサイド

 プロヴァナンスの一本。シェリー・カスクの11年もの、43度。
 ローゼス地区を代表する食後酒。ブレンダーの間で夙に高い評価を受ける。カティサーク、フェイマス・グラウスの原酒モルトのひとつ。
 蜂蜜ナッツや熟した果実、レーズンの香り、豊かなシェリー香。こくに奥行きがありオイリー、シルクのようにスムース。柔らかい甘味が残るフィニッシュ。グレンダランと比してクリーム・ブリュレを思わせる香りが濃厚、プリンにつきもののカラメルを舐めるような甘さがある。
 ベリー・ブラザーズ&ラッド社のボトルは蒸留所元詰めのグレンロセスの定番。実に多くのヴィンテージが頒されてい、72年以降は現在なお入手可能。

タムドゥー(8年 ゴードン&マクファイル)スペイサイド

 マクファイルズ・コレクションの一本。40度。  際立った個性はないが、飽きのこない飲みやすい食後酒として仏蘭西、伊太利亜、西班牙でよく飲まれている。フェイマス・グラウス、カティサークの中核をなすモルト。
 ディスティラリー・ボトルは10年と12年もの。アデルフィ社、キングスバリー社、クレゴーン社、ケイデンヘッド社、シグナトリー社、ダグラス・レイン社、ダンカン・テイラー社、ハート・ブラザーズ社からはカスク・ストレングスが、サマローリ社からは加水タイプが、ゴードン&マクファイル社とムーン・インポート社からはその双方が頒布されている。なお、クレゴーン社はオーキンドゥーのブランドでボトリングされている。

クライヌリッシュ('89 ダグラス・マクギボン)ハイランド

 プロヴァナンスの一本。11年もの、43度。
 カードゥ、タリスカーと共にジョニー・ウォーカーのキー・モルト。蒸留所があるブローラの町はリゾート地で、ブローラ川は鮭が遡上する川として識られる。
 リキュール系の輝くような甘さとスパイシーな薫香。マスタードの辛さ。加水すると甚だドライでシャープな切れ上がりをみせる。食前、食後を問わない、秀れたオールラウンダー。絹綾のように滑らかで豊かなこくと杳杳(ようよう)たる余韻。銘酒の誉れ高い一本。足腰が強く、スパイシー、かつ長く豊かなフィニッシュをもたらすモルトは、熟成の年月にこだわらず、若いものを味わうのが最適。
 ディスティラリー・ボトルはユナイテッド・ディスティラーズ社の花と動物シリーズだったが、2002年夏、ヒドゥン・モルト・シリーズも発売された。初手はよりホットにしてスパイシーな味わい。暖かく長く続くフィニッシュの中に僅かな甘味があり、バランスの良さでは本品が優るものの、ユナイテッド・ディスティラーズ社のボトルにみられるバターのようなこくと香りはなくなった。香味にかなり差異があり、好き嫌いが訣れるところか。

グレン・ギリー('82 ダグラス・レイン)ハイランド

 オールド・モルト・カスクの一本。19年もの、50.0度のプリファード・ストレングス。288本のシングル・カスク。
 創業は1785年、東ハイランド最古の蒸留所。かつてはVAT69、其後はロブロイやアイラ・レジェンドの原酒モルトだったが、95年10月に閉鎖。
 草木染に用いる露草や湿った海苔、ボウモアをより淡白にした甘くコスメティックな香り。バイオレット・フィズを想わせるややオイリーな味わい。バランスはよいが浅く軽いフィニッシュ。
 ディスティラリー・ボトルは8年、12年、15年、21年、他に数種類のカスク・ストレングスがボトリングされている。  ウィスキー・エクスチェンジ社、ダグラス・レイン社、ボトラーズ社からカスク・ストレングスが、キングスバリー社、サマローリ社、グレン・スコマ社からは加水タイプが、ムーン・インポート社からはその双方がボトリングされている。

ヒルサイド('71 ユナイテッド・ディスティラーズ)※ ハイランド

 レアモルトの一本。25年もの、62.0度。ボトリングは97年。
 VAT69の核をなす原酒だったが、1985年に閉鎖。モルト・ウィスキーの生産は休止したままである。今後、入手が困難になることは必定。モルトの生産は停止されたままだが、麦芽製造部門はフル稼動。アバフェルディをはじめとするユナイテッド・ディスティラーズ社傘下の蒸留所に麦芽を供給し続けている。蒸留所名が幾度となく変わっているが、グレネスクと改名された1980年までの名称はヒルサイド。
 バーボン・ウィスキーの焦げたような香り、ライトでドライな飲み口。フィニッシュは長く、スパイシーな中に甘味が残る。
 ケイデンヘッド社とゴ−ドン&マクファイル社から加水タイプが、ケイデンヘッド社とダグラス・レイン社からカスク・ストレングスが頒布されている。なお、ヒルサイド名義のボトルは本品のみ。

ブラッドノック('87 ゴードン&マクファイル)ローランド

 コニッサーズ・チョイスの一本にして、40度。
 ロッテのガーナチョコを想わせるラム酒の香りと檸檬を中心とする柑橘系の香り。しっとりと洗練されたフル・ボディ。厚みのあるフィニッシュ。
 スコットランドで最も南に位置する蒸留所。温暖な気候のせいか、デリケートで豊かな香りとしっかりしたボディを持っている。ローランドでは出色のモルトウィスキー。一昔前はディスティラリー・ボトルとして8年ものが出回っていた。93年に閉鎖されたが、99年にアームストロング社が操業を再開。数尠なくなったローランドの蒸留所がひとつ救われた。
 ケイデンヘッド社、シルバー・シール社、ダグラス・レイン社、イアン・マキロップ社からはカスク・ストレングスが、キングスバリー社、ヴァン・ウィー社、イアン・マクロード社、マッカーサー社からは加水タイプが、ゴードン&マクファイル社、シグナトリー社、ユナイテッド・ディスティラーズ社からは両タイプがボトリングされている。