●ですぺらモルト会七月

 

ラフロイグ('90 ブラックアダー)アイラ

 オーク樽の8年もの、43度のシングル・カスク。
 ラベルには「力強く、とてもピーティーでスモーキー、従って、臆病者には相応しくないウィスキー」と著されている。
 焼け焦げたヘザー、浜に打ち上げられひからびた海藻、ロープに塗り込められた防腐剤、鄙(ひな)びた港町の饐(す)えた臭い、うがい薬や消毒液の錯綜した臭いなどなど、強烈な沃素の臭いによって好き嫌いがはっきり訣れる。フィニッシュは厚くまろやかで、頗るドライ。五臓六腑にずしりとくる存在感。ウィスキーとはかくも熾烈なもの。
 現在なお、フロア・モルティングを行い、テネシー産、特にジャック・ダニエルのバーボン樽を熟成に用いる。

マクファイル(30年 ゴードン&マクファイル)スペイサイド

 ゴードン&マクファイル社のオリジナル・ブランドにして、中味はマッカラン。
 昔からG.M社はヴィンテージもののみマッカランと記載、エイジング・ボトルはマクファイルと表記される。10年から40年ものまで各種あり、すべて40度。度数にこだわらなければG.M社のマッカラン、特にマクファイルはお買い得。
 10年、15年、21年、25年、30年、40年、ミレニアム・エディションなどがある。

ミルトンダフ(12年)※ スペイサイド

 43度のディスティラリー・ボトル。
 バランタインやアンバサダーの主要モルト。香り、味、フィニッシュ共、軽快でミュート。自己主張のなさに逆に気品を感じることも。
 わずかにフルーツ香、麦芽の甘味とクリーンでスムースな飲み口。バランスを重視した控え目な甘口はビギナー向け。
 インター・トレード社、ゴードン&マクファイル社、ハート・ブラザーズ社、ヴァン・ウィー社、イアン・マクロード社から加水タイプが、シグナトリー社、ダグラス・レイン社、ダンカン・テイラー社、マキロップ社、ムーン・インポート社からカスク・ストレングスがボトリングされている。

モストウィー('75 ゴードン&マクファイル)スペイサイド

 18年もの、40度。
 グレンバーギ蒸留所がローモンド・スティルを導入してグレンクレイグを蒸留していたのと同様、ミルトンダフ蒸留所は一時期、ローモンド・スティルによる別種のモルト、モストウィを醸していた。ローモンド・スティルの導入は1964年から81年まで。よりヘビーにしてオイリーな味わいが特徴とされる。もっとも、ローモンド・スティルはすでに撤去、ごく少量の在庫のみが出回っている。
 加水タイプはゴードン&マクファイル社のボトルのみ。キングスバリー社、ケイデンヘッド社、マキロップ社、マッカーサー社からはカスク・ストレングスがボトリングされている。

モートラック('90 ダグラス・レイン)スペイサイド

 オールド・モルト・カスクの一本。シェリー・カスクの10年もの、50度のプリファード・ストレングス。720本のリミテッド・エディション。
 ダフタウン最古の創業、スペイサイドのよさをすべて備えたメローな食後酒。ジョニー・ウォーカーの原酒モルトのひとつ。6基のポット・スティルはすべて形状が異なり、蒸留作業は煩雑を極めるという。幸いにして、その工程がモートラックの豊かなこくを生み出す要因になっている。
 チョコレート、ダーク・ラム、シェリー酒等の深い甘味、濃厚なピート香と僅かに青林檎のキャラクター、柔らかいタンニンを持つミディアム・ボディ。シェリー樽由来のナッツ香とペカン(クルミ科)の実の香り、ソフトなバニラの味わい、甘さとピート香のバランスに優れる。フィニッシュは長く、ユナイテッド・ディスティラーズ社の16年ものと比べ、より爽やかにしてエレガント。
 今月チョイスしたウィスキーのなかでラフロイグ、ローズバンク、モートラックは人気筋、従ってさまざまなボトラーが扱っている。購入のさいにはカスクの違いを楽しんでいただきたい。

グレン・モール(15年 ゴードン&マクファイル)ハイランド

 40度。  道を挟んでグレン・アルビンに隣接する姉妹蒸留所だったが、83年に共に閉鎖、88年には完全に取り壊された。仕込用水にネス湖の水を利用。観光客が多く、近頃はネッシーも姿を見せなくなった。地元ではグレン・ヴァーとも。
 伊太利亜と仏蘭西は国民一人あたりのウィスキーの消費量が際だって多く、希臘、西班牙、独逸と続く。ちなみに、英吉利と日本はベスト10位に入らない。
 インター・トレード社、ゴードン&マクファイル社から加水タイプが、ゴードン&マクファイル社、シグナトリー社、ダグラス・レイン社、ユナイテッド・ディスティラーズ社のレアモルトからカスク・ストレングスがボトリングされている。

タリバーディン(10年)※ ハイランド

 40度のディスティラリー・ボトル。
 スコッツ・グレイの核をなす原酒モルト。酒質はモルティなライトボディ。フルーティーな香りと麦芽の風味、甘く切れ上がるソフトなフィニッシュ。
 ジム・ビーム・ブランドのスティルマンズ・ドラムから25年ものと30年ものがボトリングされている。インデペンデント・ボトラーには66年蒸留の長期熟成のカスク・ストレングスしかなく、キングスバリー社、ダグラス・レイン社、ブラックアダー社からボトリングされている。2003年、ロンバード社から89年蒸留の13年ものプリファード・ストレングスが頒布された。はじめての若いモルトであり、かようなボトルの出現によって、チョイスに幅と奥行きが拡がるのを期待したい。

ダルウィニー(15年)※ ハイランド

 43度のディスティラリー・ボトル。
 ブラック&ホワイト、ロイヤル・ハウスホールドの原酒のひとつ。ロイヤル・ハウスホールドの原酒とは言え、グレントファースのような際立った特徴はなく、スペイサイドのカードゥ同様、淡々とした味わいと切り上がり。
 ちなみに、本品はユナイテッド・ディスティラーズ社のクラシック・モルト・シリーズの一本。他ではクラガンモア12年、オーバン14年、グレンキンチー10年、タリスカー10年、ラガヴーリン16年が選ばれている。味や香りの地域差を識るに最適のコレクションである。
 ユナイテッド・ディスティラーズ社からは本品の他、ディスティラリー・エディションのダブル・マチュアードと66年蒸留、限定1500本のニュー・カスク・ストレングスが頒布されている。インデペンデント・ボトラーではゴードン&マクファイル社から70年蒸留のボトルが一種頒布されるのみ。

ロッホサイド('88 マーレイ・マクデヴィッド)ハイランド

 リフィール・シェリーの18年もの、46度のシングル・カスク。
 軽くスムースな味わい、ドライなフィニッシュだが余韻が残らず、なんら特徴を持たない。グレンモーレンジ同様、ミネラル分を含む硬水を仕込み用水に用いる。
 モントローズにはロッホサイドとグレネスク、ふたつの蒸留所があったが、共に80年代半ばから操業停止、90年代に閉鎖された。ロッホサイドの閉鎖は92年。ただし、グレネスク蒸留所はモルトスターとして活躍中。
 かつては10年ものディスティラーズ・ボトルが頒されていたが、現在では入手困難。ウィバーズ・ウィスキー・ワールド社、ケイデンヘッド社、シグナトリー社、スコッチ・モルト・セールス社、ダグラス・レイン社、ブラックアダー社、ロンバード社からカスク・ストレングスが、ゴードン&マクファイル社、マーレイ・マクデヴィッド社、マッキンタイア社から加水タイプがボトリングされている。

ローズバンク('92 ヴィンテージ・モルト)ローランド

 ヴィンテージ・モルト社のクーパーズ・チョイスの一本。オーク・カスクの7年もの、43度。
 初手はフレッシュな甘味と焼き林檎の香り、甘いアロマ香。味わいはシャープだが加水するとスイートに。フィニッシュはスムースな辛口。アペリティフとして秀逸。
 「野薔薇の堤」と題されたミディアムボディ。伝統の3回蒸留を味わうに最適だったが、93年5月に閉鎖。ローランドを代表するモルトウィスキーがまたひとつ消え去るのか、再起が望まれる蒸留所である。3回蒸留では、他にオーヘントッシャン、ベンリネス、愛蘭土のブッシュミルズがある。ディスティラリー・ボトルはユナイテッド・ディスティラーズ社の花と動物シリーズ。
 今月のセレクトのなかではラフロイグ、モートラック、ローズバンクの三種はさまざまなインデペンデント・ボトラーからボトリングされている。いずれもが、カスクの違いを楽しむに打ってつけのウィスキーである。