●ですぺらモルト会六月

 

タリスカー(10年 シールダイク)アイランズ

 ウィリアム・マックスウェル社のリリースになるタリスカー。43度。
 シールダイグとは西ハイランドにある風光明媚な漁村。アルマニャックのボトルを用い、ギフト用として仏蘭西国内で販売されている。ちなみに、マックスウェル社はイアン・マクロード社の子会社。
 ディスティラリー・ボトルと比して、アルコール度数が低い。その分、香りがいささか弱いのは否めないが、シャープで飲みやすいのが利点。
 スモーキーな潮の香、頭頂に抜けるシャープな辛口。胡椒と荒塩の強烈なキャラクター、舌の上で火花が弾けるパワフルな後口、妥協を許さない個性。

 マクロード社(アイランド)、キングスバリー社(ヘブリディーズ)、サマローリ社、スコマ社、ハート・ブラザーズ社、ベリー・ブラザーズ社(アイル・オブ・スカイ)、から加水タイプが、キングスバリー社(ヘブリディーズ)、ケイデンヘッド社、スコッチ・モルト・セールス社(アイランド・クラシック)、ダグラス・レイン社(タクティカル)、ボトラーズ社からカスク・ストレングスがボトリングされている。

グレン・スコシア('90 ゴードン&マクファイル)キャンベルタウン

 マクファイルズ・コレクションの一本。9年もの、40度。
 94年に操業中止、それ以来、初めてのボトリング。蒸留所は前世紀末にロッホ・ローモンド・ディスティラリーが買収。スプリングバンクと共にキャンベルタウンに残されたわずか二つの蒸留所のひとつだったが、スプリングバンクの援助を得て、操業も再開。マル・オブ・キンタイアの伝統であるオイリーにして塩辛い飲み口のモルト・ウィスキーが救われた。
 一本筋の通った貴重な味わいと絶妙のバランスを内に秘めたモルト。陽にかざすと骨まで透ける干鰈のごときデリケートなこく、カラメルのようにスイートで膨よか、フレッシュな味わい。スプリングバンクの持つ押しの強さはないが、微かなスモーキー・フレーバーと芯のある甘味が心地よい余韻をもたらす。
 12年もののディスティラリー・ボトルはすでになく、現在は14年ものと旧オーナーのグレン・カトリーヌ社のボトルが出回っている。ボトラーのボトルでは本品の他、スコッチ・モルト・セールス社のカスク・ストレングスのみ。スムースでオイリーなボディ。カスク・ストレングスだけに、ブリニー(塩辛い)なキャラクターがより深く楽しめる。

グレン・スペイ('85 ケイデンヘッド)スペイサイド

 オーセンティック・コレクションの一本。シェリー・バットの13年もの、60.9度のカスク・ストレングス。限定222本のシングル・カスク。
 樽由来のシェリー香、軽くしなやかな酒質。ディスティラリー・ボトルよりは遙かにましだが、やはり自己主張が足りない。ノッカンドオ、オスロスク(シングルトン)、ストラスミル等と共に、J&Bグループに属する蒸留所だったが、親会社の合併により、ディアジオ社の傘下に入った。
 ディスティラリー・ボトルはユナイテッド・ディスティラーズ社の花と動物シリーズ、2002年初頭の発売である。ちなみに、同時頒布は本品の他、オスロスク、グレン・エルギン、ストラスミルの4種。それまでは極めて入手困難なモルトで、ケイデンヘッド社とシグナトリー社のボトルのみだった。

グレントファース('79 ゴードン&マクファイル)スペイサイド

 17年もの、40度。同じヴィンテージの19年もの、90年蒸留の10年ものも頒されている。
 プレミアム・スコッチのロイヤル・ハウスホールドの原酒モルト。ディスティラリー・ボトルはなく、かわりにゴードン&マクファイル社のオリジナル・ラベルが出回っている。
 干し杏子、バナナチップス、ナッツの香り、栗の蜜煮を想わせるスイートなこくとパワフルな味わい。次第にドライに切れ上がっていく、極めて長いフィニッシュ。スペイサイドの隠れた美酒。
 旧オーナーのアライド社のアライド6の他、シグナトリー社からカスク・ストレングスがボトリングされている。

タムナヴーリン(10年)※ スペイサイド

 40度のディスティラリー・ボトル。
 タムナヴーリン・グレンリヴェットが蒸留所の正式名称。グレンリヴェットを名のるのは、かつてのスペイサイドの流行で、ジョージ・スミスが創したグレンリヴェットにあやかりしもの。元祖が定冠詞「ザ」を用いて、他を区別するようになったのは有名な話。近代的な蒸留所として識られたが、1995年より休止。再開の可能性は少ない。
 クリーンでライト、新しい落葉を食(は)むような苦甘いテイスト。
 ディスティラリー・ボトルとしては10年、12年、タムナヴーリン・グレンリヴェット名義の10年もの、ジム・ビーム・ブランド社のスティルマンズ・ドラムの一本としても頒布されている。インデペンデント・ボトラーではゴードン&マクファイル社、パシフィック・カレドニアン社、ブラックアダー社からカスク・ストレングスがボトリングされている。

リンクウッド('89 ダグラス・レイン)スペイサイド

 オールド・モルト・カスクの一本。11年もの、50度のプリファード・ストレングス。624本のリミテッド・エディション。  蒸留所のあるマレイ州の中心地エルギンは、モルト愛好家には馴染みの瓶詰業者ゴードン&マクファイル社の本拠地でもある。
 味を変える怖れのある環境の変化を忌み、かつては蒸留所内の蜘蛛の巣でさえ払うのを禁じたという。99パーセントがブレンド用で、アポッツ・チョイス並びにチェッカーズの原酒モルト。
 新春の原生花園に降り立ったようなフローラルな香り、マンザナベルデに似た青林檎のアロマ、バランスが佳く、雑味のない静謐な味わい。仄かにスパイシーなフィニッシュ。グレンロッシーやロイヤル・ロッホナガーと共にソフィスティケーテッドなウィスキーとして識られ、「入手できる最上のモルトのひとつ」と 讃えられている。
 人気筋なのでさまざまなボトルが頒されているが、その大半がシェリー・カスクである。従って、ダグラス・マクギボン社のラム・フィニッシュ、イアン・マクロード社のクラレット・フィニッシュ、ベニーヴァ社とマーレイ・マクデヴィッド社のバーボン・カスクは特筆もの。シェリーとは異なるバーボン特有のほのかな甘さを伴ったフィニッシュも美味なもの。

アードモア('89 ウイルソン&モーガン)ハイランド

 シェリー・カスクの10年もの、46度。
 ティーチャーズの原酒モルト。ソフトでオイリー、シリアル系の香り、バランスのよさと長いフィニッシュが特徴の食後酒。
 ディスティラリー・ボトルは記念ボトルのみ。ウィルソン&モーガン社、ゴ−ドン&マクファイル社、シグナトリー社、ヴァン・ウィー社から加水タイプが、ケイデンヘッド社、ダグラス・レイン社からカスク・ストレングスが頒布されている。

グレネスク('82 ゴードン&マクファイル)ハイランド

 コニッサーズ・チョイスの12年もの、40度。
 VAT69の核をなす原酒だったが、1985年に閉鎖。モルト・ウィスキーの生産は休止したままである。今後、入手が困難になることは必定。モルトの生産は停止されたままだが、麦芽製造部門はフル稼動。アバフェルディをはじめとするユナイテッド・ディスティラーズ社傘下の蒸留所に麦芽を供給し続けている。蒸留所名が幾度となく変わっているが、グレネスクと改名された1980年までの名称はヒルサイド。
 バーボン・ウィスキーの焦げたような香り、ライトでドライな飲み口。フィニッシュは長く、スパイシーな中に甘味が残る。
 ケイデンヘッド社とゴ−ドン&マクファイル社から加水タイプが、ケイデンヘッド社とダグラス・レイン社からカスク・ストレングスが頒布されている。なお、ヒルサイド名義のボトルではユナイテッド・ディスティラーズ社のレアモルトが入手可能。

ノース・ポート('74 ゴードン&マクファイル)ハイランド

 コニッサーズ・チョイスの18年もの、40度。
 アンガス地方のもっとも古い町のひとつブレチンの蒸留所。1983年に突然閉鎖され、建物は取り壊された。現在ブレチンに残る蒸留所はグレンカダムのみ。共にディスティラリー・ボトルのシングル・モルトは一度も頒布されていない。
 ゴ−ドン&マクファイル社から加水タイプが、ケイデンヘッド社、ダグラス・レイン社、マキロップ社、ユナイテッド・ディスティラーズ社のレアモルトからカスク・ストレングスが頒布されている。

グレンキンチー('82 スコッチ・モルト・セールス)ローランド

 ディスティラリー・コレクションの一本。フィノ・シェリー・カスクの18年もの、62.5度のカスク・ストレングスにしてシングル・カスク。  スコティッシュ・インデペンデント・ディスティラーズ、すなわちイアン・マクロード社の樽をボトリング。リリースはスコッチ・モルト・セールス社。
 ローランド・モルトの特色をよく備え、酒質は軽く、癖の尠ない辛口で飲みやすい。けだし香りが豊かで、入門編として格好。ヘイグのキー・モルト。柔らかな燻香と微かな磯の香が持ち味。こぢんまり纏まった巧緻な味わい。フィニッシュは最初はドライ、次第にスパイシーに変化する。ディスティラリー・ボトルには感じられない爽やかな若草にシトラスの香り、オークの甘さを感じさせるミディアム・ボディ。蕃椒の辛さを想起させるドライでスパイシーなフィニッシュのなかにごく僅かなピート香。
 ディスティラリー・ボトルはユナイテッド・ディスティラーズ社のクラシック・モルト。同ディスティラリー・エディションのダブルマチュアード、レアモルト、フレンド・オブ・クラシックも頒布されている。また、ダグラス・レイン社のディレクターズ・セレクションからはグリーミングのブランドでカスク・ストレングスがボトリングされている。