●ですぺらモルト会五月

 

ボウモア('92 ドナート)アイラ

 ダン・イーディアンの一本。8年もの、46度。2樽、725本のリミテッド・エディション。
 ミディアム・ピートやスモーキー・フレーバーの香り、沃素のキャラクターなど、こしかたのボウモアの味を愉しむことが可能なボトル。本品はマーレイ・マクデヴィッド社のボトルと共に、セレクト系のボウモア。従って、香りのベクトルはレジェンドとサーフの中間、ボウモアが本来持つライトな味わいを愉しむに最適。コスメティックな香りは淡く、バランスがすこぶる結構。かかる原酒が長期熟成されると美味なウィスキーになる。
 蒸留釜コンデンサーの冷却方式を昔通りに改めたのが90年初頭、それから12年を経て、やっと新しいディスティラリー・ボトルの12年ものが頒布された。新しいと言うよりは、かつてのボウモアの香味が甦ったのである。プリントラベルからペーパーラベルに変更。今後、ボウモアの中身は順次新しいモルトに切り替えられて行く。ベンゾイン系の癖の強いエキゾチックな芳香と珈琲リキュールの甘い香り、消化不良を起こしかねない矯激な香味のボウモアを昔に戻そうと長年にわたり努力されたサントリーに深甚の謝意を表したく思う。ボトラーのマーレイ・マクデヴィッドは「現オーナーのサントリーは、ウエアハウスのひとつを蒸留に伴う熱水と共にコミュニティーに寄贈、倉庫は町営の温水プールと化した。頭から飛び込む他、このリッチで贅沢極まりない一杯のウィスキーを嗜む術はない」と著している。
 なお、2002年9月現在の並行ものが旧ボトルと同じボトルで頒されている。飲めば分かるが見た目だけでは識別不可。将来ややこしくなりそうである。
 今月チョイスしたウィスキーのなかでボウモアとマッカランは人気筋、従ってさまざまなボトラーが扱っている。購入のさいにはカスクの違いを楽しんでいただきたい。

トーモア(10年 ダグラス・マクギボン)スペイサイド

 プロヴァナンスの一本。10年もの、43度。
 ディスティラリー・ボトルのラベルの水彩画に象徴される淡いタッチが売りの新規蒸留所。「癖のないソフトなイメージのウィスキー」もしくは「飲みやすく親しみの持てる現代風モルト」が蒸留所の売り。トミントゥールやアラン同様、若者向けのモルト・ウィスキー。
 涼やかなライト・ボディで、ロング・ジョンの原酒モルト。イギリスのスーパーで売られている蒸留所名不詳のハイランド・モルトによく用いられている。
 加水タイプは本品とヴァン・ウィー社のアルティメット。ケイデンヘッド社、ダグラス・レイン社、ブラックアダー社からカスク・ストレングスがボトリングされている。

バルミニック('90 イアン・マクロード)スペイサイド

 チーフテンズの一本。ホグスヘッドの11年もの、43度。4樽、1800本のリミテッド・エディション。
 ヘザーハニーの香り、甘辛のバランスが佳く、ジンジャーを想わせるスパイシーなフィニッシュが長く続く。グレントファースと共に、スペイサイドの隠れた銘酒。入手可能な間に是非味わうべき逸品。
 ディスティラリー・ボトルはユナイテッド・ディスティラーズ社の花と動物シリーズにて1991年の発売。他にゴードン&マクファイル社のコニッサーズ・チョイスはお薦めの一本。
 ゴードン&マクファイル社、ハート・ブラザーズ社、ヴィンテージ・モルト社、ブラックアダー社、イアン・マクロード社から加水タイプのボトルが頒布されている。アデルフィ社、ハート・ブラザーズ社、ハイ・スピリッツ・コレクション社、イアン・マキロップ社、イアン・マクロード社、ユナイテッド・ディスティラーズ社のレアモルトからカスク・ストレングスが頒布されている。

ブレイズ・オブ・グレンリヴェット('89 ケイデンヘッド)スペイサイド

 オーセンティック・コレクションの一本。バーボン・ホグスヘッドの10年もの、62.2度のカスク・ストレングス。限定288本のシングル・カスク。
 アルタナベーンとは兄弟蒸留所だが、こちらは重厚な味わい、噛み応えのあるボディ。メイプルシロップや干し葡萄の甘い香り、蜂蜜のような深くまろやかなこくとオレンジ・ピールの風味。フィニッシュは長くドライ。創業は73年と新しいが、ストラスアイラと共に傑出したモルト。ストラスアイラが甘すぎるという方に強くお薦め。
 蒸留所名はブレイヴァル。シーバス・リーガルの原酒モルトのためディスティラリー・ボトルはなく、インデペンデント・ボトラーを介してやっと入手可能になった。
 キングスバリー社、ケイデンヘッド社、シグナトリー社、ダグラス・レイン社からカスク・ストレングスが頒布されている。特筆すべきはスコッチ・モルト・セールス社とハート・ブラザーザ社から頒布されたマディラ・フィニッシュのボトル。樽由来のフレッシュ・ミントとオレンジの花の香り、心地よい甘味の中に秘められた爽やかな酸味が美味。

ベンリアック(10年)※ スペイサイド

 43度のディスティラリー・ボトル。
 エルギン地区の銘酒ロングモーンとは兄弟蒸留所。クイーン・アン、サムシング・スペシャルの原酒。ディスティラリー・ボトルのシングル・モルト10年ものは94年の発売。
 カラントや柑橘系の豊稠な香り。トフィーやバタースコッチの甘味。フィニッシュはドライ、次第にスモーキーに。  ゴードン&マクファイル社のコニッサーズ・チョイスから40度のボトル、他ではダンカン・テイラー社のピアレスから長期熟成のカスク・ストレングスが頒布されている。

マッカラン('90 ドナート)スペイサイド

 ダン・イーディアンの一本。11年もの、46度。2樽、695本のリミテッド・エディション。
 シェリー樽熟成のウィスキーは最高の贅沢とされる。しかし、シェリー樽の数は限られ、高価なものになってしまった。現在なお、貯蔵のすべてにシェリー樽を用いるのはマッカランとグレンファークラスのみ。シェリー銘醸地ヘレスの香りとエレガントな味わいを愉しむべし。また、マッカランは二条大麦のゴールデンプロミス種を原料に用いる。コスト高のため、蒸留所周辺の土地を買い集め、栽培を委託している。現在なお、同種にこだわり続けるのもマッカランのみ。
 ナッツ香とバニラ香に彩られた滑らかな甘口、上質の蜂蜜の香りを彩る僅かなスモーキー・フレーバー。フルボディにして、長くメローなフィニッシュ。ラガヴーリンと共に傑出したバランスを誇る食後酒であり、トップ・ドレッシングのひとつ。特に18年ものは百貨店ハロッズのウィスキー読本で「シングルモルトのロールスロイス」と絶賛される食後酒。
 ゴードン&マクファイル社からは数種類のマッカランが頒されているが、ヴィンテージ・ボトルはコレクション「スペイ・モルト」から、エイジング・ボトルは「マクファイル」のブランドで頒布されている。10年から40年ものまで各種ボトルがあり、すべて40度。度数にこだわらなければゴードン&マクファイル社のマッカラン、特にマクファイルはお買い得。共にディスティラリー・ボトルと比してやや辛口にふられていて美味。

グレンロッキー('75 ダグラス・レイン)ハイランド

 オールド・モルト・カスクの一本。26年もの、50.0度のプリファード・ストレングス。258本のシングル・カスク。
 バンフ同様、印象が薄く、余韻の残らないモルト。
 創業は1898年。悲運の歴史を重ね、1983年に閉鎖。パゴダ屋根の蒸留所は歴史的建造物として保存されたが、内部の設備は取り払われ、再開の可能性はなくなった。
 ユナイテッド・ディスティラーズ社のレアモルトからカスク・ストレングスが1995年に頒布されたがすでに絶版。本品以外ではゴードン&マクファイル社のコニッサーズ・チョイスから40度のボトルが、ケイデンヘッド社からシェリー樽熟成のカスク・ストレングスが頒されているのみ。

ダルモア('88 ダグラス・マクギボン)ハイランド

 プロヴァナンスの一本。11年もの、43度。
 ホワイト&マッカイの核をなす原酒モルト。蒸留所の在るロス州一帯は昔から鹿猟が盛んなところ、ボトルに著された牡鹿の紋章の謂である。  マーマレード、オレンジピール、栗の渋皮等々、粘り付くような重たい甘気が特徴。きれが悪く、癖の強いフィニッシュ。いわば異色の食後酒。ドグマが擾々(じょうじょう)たる結果をもたらす典型なのかもしれないが、これもやはり立派な個性か。
 ディスティラリー・ボトルは12年と21年もの、先頃カスク・ストレングスが「キンダル・シングルカスク・セレクション」と銘打って三種発売された。インデペンデント・ボトラーでは加水タイプがヴァン・ウィー社から、カスク・ストレングスがアデルフィ社、クライズデール社、シグナトリー社、ダグラス・レイン社、ボトラーズ社、マッカーサー社から頒布されている。

バンフ('66 ダグラス・レイン)ハイランド

 31年もの、50度のプリファード・ストレングス、限定202本のシングル・カスク。
 ソフトでクリーン、要するにすべてに於いて物足りないモルト。加水するとジンジャー・ビスケットのような味わい。83年に閉鎖、建物は取り壊され、蒸留所自体過去のものとなった。
 70年代に閉鎖されたガーヴァン(レディバーン、エアシャー)、キンクレイス、ベン・ウィヴィス、または80年代だがモファット(グレン・フラグラー、キリーロッホ、アイルブレイ)のようなローランドの蒸留所のモルトも自己主張のない、すべてに於いて物足りないモルトだった。かかるボトルが一部のマニアの間で高値で取引されているのは、なにかしら、胡散臭さや虚しさのようなものを感じる。
 加水タイプがゴードン&マクファイル社、シグナトリー社、イアン・マクロード社から、カスク・ストレングスがウィスク・イー社の土屋守コレクション、ケイデンヘッド社、ダグラス・レイン社、ヴィンテージ・モルト社、ブラックアダー社、ボトラーズ社から頒布されている。

オーヘントッシャン・スリーウッド※ ローランド

 43度のディスティラリー・ボトル。
 バーボン、オロロソ・シェリー、ペドロヒメネスの3種の樽で熟成させたモルトをヴァッテド。軽い飲み口のオーヘントッシャンにトフィーとシェリーの豊かで複雑な香味を与えている。
 ローランドに現在残る蒸留所はオーヘントッシャン、グレンキンチー、ブラッドノックのわずか3箇所のみ。伝統の3回蒸留では唯一の蒸留所となった。蒸留所はローランドだが、水源はハイランド。
 セレクト、10年、18年、21年ものの他、数種類のカスク・ストレングスがディスティラリー・ボトルとして頒されている。インデペンデント・ボトラーではダンカン・テイラー社の子会社のウィスキー・ガロアから加水タイプが、カスク・ストレングスはケイデンヘッド社とダグラス・レイン社から頒布されるのみ。