●ですぺらモルト会四月

 

スキャパ('85 イアン・マクロード)アイランズ

 チーフテンズの一本。シェリー・バットの16年もの、43度。2樽、1626本のリミテッド・エディション。
 オークニー諸島ポモナ(メインランド)のスキャパ湾で醸される地酒。バランタインの「魔法の七柱」のひとつにして、アンバサダーの主要モルトでもある。かつてはG.M社の8年もしくは10年ものしか手に入らなかったが、先頃、少量だがディスティラリー・ボトルが販売されるようになった。現在、ハイランド・パークによって蒸留所は運営されている。
 仕込用水には蒸留所周辺の泉の水を用いる。ピート色が濃く、まるでチョコレートのようだが、原料となる大麦麦芽(モルト)にピートは焚かない。そしてスキャパ特有のローモンド・スティル。共に1885年の創業から続くオイリーな飲み口の原点のひとつ。
 他にローモンド・スティルを用いたモルトではローランドのインヴァリーブンが識られるが、他にも、グレンバーギ蒸留所のグレンクレイグ、ミルトンダフ蒸留所のモストウィ等がある。
 ラム・レーズンの厚い香り、バニラやチョコレートを想わせる柔らかな味わいと際立ってオイリーな喉ごし。フィニッシュは長く、加水するとフルーティーに。ディスティラリー・ボトルと比して樽由来の甘味に特徴。ハーブのキャラクターとリッチな蜂蜜の添え香。
 キングスバリー社、ゴードン&マクファイル社、シグナトリー社、イアン・マクロード社、ムーン・インポート社、モンゴメリーズ社からは加水タイプが、キングスバリー社、ケイデンヘッド社、ダグラス・レイン社、イアン・マクロード社、ジョン・ミルロイ社からはカスク・ストレングスがボトリングされている。

ブナハーブン('90 ダグラス・マクギボン)アイラ

 プロヴァナンスの一本。10年もの、43度。
 創設は1881年。ブレンデッド・ウィスキーのフェイマス・グラウスのメーカーであるハイランド・ディスティラーズ社が1887年からの一貫したオーナー。
 ほとんどピートを焚かないので、アイラ独特のピーティーな風味が抑えられている。ライト感覚とフレッシュな潮の香が受け、アメリカでの人気が高い。
 ディスティラリー・ボトルの12年、30年ものの他に、ゴードン&マクファイル社、キングスバリー社、ダグラス・レイン社、シグナトリー社、ブラックアダー社等から多くのボトルが頒されている。また、ベリー・ブラザーズ&ラッド社からボトリングされたカスク・ストレングスはマルガデールのブランドで頒布されている。

キャパドニック('74 イアン・マクロード)スペイサイド

 チーフテンズの一本。ホグスヘッドの28年もの、46度。3樽、636本のリミテッド・エディション。
 グレン・グラントの第二蒸留所として1898年に設立されたが、わずか3年後に操業停止、再開されたのは1965年。グレン・グラントと共に1977年にシーグラム社の傘下に入った。グレン・グラント、グレンロセス、グレン・スペイ、スペイバーン、キャパドニックと五つの蒸留所がローゼスの狭い町なかにひしめいているが、グレンロセスを除き、印象の薄いウィスキーが多い。土屋守さんは「銀みがきの粉、ヒビテン液(洗浄剤)のような不思議な香り」と著している。
 ケイデンヘッド社、ゴードン&マクファイル社、シグナトリー社から加水タイプが、ケイデンヘッド社のチェアマンズ・ストック、ダグラス・レイン社、ダンカン・テイラー社、ハート・ブラザーズ社からカスク・ストレングスが頒布されている。ディスティラリー・ボトルがなく、インデペンデント・ボトラーズのボトルは長期熟成品ばかりなので、安価なボトルの出現が待たれる。

グレンアラヒ('91 シグナトリー)スペイサイド

 シェリー・バットの8年もの、43度、限定902本のシングル・カスク。
 女性に人気のエレガントな食前酒であり、僚友アベラワーと通底する味わいを持つ。きれのよさは心地よく、極上のフィニッシュに飲み手を誘う。オーク・カスクにはない、アーモンドのようなナッツ系の香りが特徴。
 仏蘭西のペルノ・リカール社が所有する蒸留所はアベラワーとグレンアラヒ。クッキーやキャンディの甘さ、まろやかな喉ごし、すこぶるデリケートな香り、軽くのびやかな酒質等々。仏蘭西ならでは、と想わせる所が愉快である。
 シグナトリー社からは数種の加水タイプが、ケイデンヘッド社、ゴードン&マクファイル社、ダグラス・レイン社からカスク・ストレングスが頒布されている。

グレン・マレイ('89 シグナトリー)スペイサイド

 シェリー・バットの9年ものダンピー・ボトル、59.5度のカスク・ストレングス。限定640本のシングル・カスク。
 フレッシュで軽く、ソフトで飲みやすいモルト。言い換えれば、個性に貧しく、パンチに欠ける。その個性を補うにワイン樽を用いたディスティラリー・ボトルが出回っている。ブルゴーニュの白ワイン主要品種シャルドネとシュナンブラン種のワイン樽がそれで、モルトの癖のなさが、逆に樽由来の香味を際立たせている。グレンモーレンジ同様、成功例も多く、さまざまな樽へのチャレンジ精神は立派。シェリー樽を用いたマネージャーズ・チョイスも頒されていル。高価だが、美味なカスク・ストレングスである。
 インデペンデント・ボトラーのボトルではケイデンヘッド社、シグナトリー社、マキロップ社のカスク・ストレングスが頒布されているだけ。

コンヴァルモア('77 ケイデンヘッド)スペイサイド

 オーセンティック・コレクションの一本。オーク・カスクの20年もの、65.2度のカスク・ストレングス。
 ブラック&ホワイトの原酒モルトだが、1985年に生産停止。以後、蒸留所は閉鎖されたまま、飲むなら今のうち。ディスティラリー・ボトルはなく、他ではゴードン&マクファイル社のコニッサーズ・チョイスとマキロップ社のカスク・ストレングスが出回るのみ。
 初手からフィニッシュに至るまで、甘味の中に粗塩のような薬品臭がつきまとう。けだし、これも立派な個性。言い換えれば、かなり不良っぽいシングル・モルト。

ストラスミル('91 ゴードン&マクファイル)スペイサイド

 コニッサーズ・チョイスの9年もの、40度。
 キース地区特有の熟した果実の香りと長く続くスパイシーなフィニッシュが特徴。
 ディスティラリー・ボトルはユナイテッド・ディスティラーズ社の花と動物シリーズだが、それと比して薫り高く、ラスト・ノートで優る。なお、インデペンデント・ボトラーズのボトルとしては最も新しい。
 ウイルソン&モーガン社とシグナトリー社から数種の加水タイプのボトル、またダグラス・レイン社とイアン・マキロップ社からも数種のカスク・ストレングスが頒布されている。

グレンドロナック('88 ケイデンヘッド)ハイランド

 オリジナル・コレクションの一本。シェリー・カスクの11年もの、46度、限定330本のシングル・カスク。
 楚々として嫋(たお)やかな甘味、和やかなピート香、バランスのよい麦芽の風味。フィニッシュはスムースで、雑味のないキレが本領。
 プレイン・オークのみで熟成、ピート香を抑えたオリジナル12年はすでに絶版。シェリー樽とプレイン・オーク(スコッチの熟成に幾たびか用いられた樽)による二種類のモルトをヴァッティングしたトラディショナル12年は人気筋だったが、こちらも生産中止。シェリー樽のみで熟成させた15年もの、40度のディスティラリー・ボトルだけがボトリングされている。ティーチャーズの主要モルト。
 ケイデンヘッド社、ハート・ブラザーズ社、ヴィンテージ・モルト社から加水タイプが、キングスバリー社、ケイデンヘッド社、シグナトリー社、ダグラス・レイン社、ブラックアダー社からカスク・ストレングスがボトリングされている。

ディーンストーン(12年)※ ハイランド

 43度のディスティラリー・ボトル。
 ディーンストン蒸留所は元は紡績工場。産業革命の父リチャード・アークライトの設計になる歴史的に重要な建築。1990年、マル島のトバモリー蒸留所と共に、バーン・スチュワートが新しいオーナーになった。先行きが愉しみである。オールド・ロイヤル、ロイヤル・アスコット、バークレイ12年の原酒モルト。
 12年、17年、21年、25年ものがディスティラリー・ボトルとして頒布されている。ボトラーではシグナトリー社とケイデンヘッド社のカスク・ストレングスが頒布されるのみ。

ティーニニック('82 ゴードン&マクファイル)ハイランド

 コニッサーズ・チョイスの17年もの、40度。
 グレンダラン同様、完熟林檎の華やかで厚みのある香味、フレッシュでスムーズなミディアム・ボディ。ヒースの花のエキスを用いたウィスキー・リキュール「ドラムブイ」の原酒モルトのひとつとして有名。
 生産量は多いが、大半がブレンド用。ケント州の独立瓶詰業者ザ・マスター・オブ・モルト社の17年ものしか手に入らなかったが、1992年からディスティラリー・ボトルの花と動物シリーズが出回るようになった。
 現在ではゴードン&マクファイル社、サマローリ社、イアン・マクロード社、ムーン・インポート社から加水タイプが、キングスバリー社、ダグラス・レイン社、イアン・マキロップ社、ユナイテッド・ディスティラーズ社のレアモルトからカスク・ストレングスが頒布されている。とりわけ、マクロード社からはシェリー・バットやポート・バレルをフィニッシュに用いたボトルが頒されてい、インデペンデント・ボトルの醍醐味、すなわちカスクの違いがウィスキーに与える影響を存分に楽しむことができます。