●ですぺらモルト会二月

 

スプリング・バンク('90 キングスバリー)キャンベルタウン

 リフィール・バーボン樽の8年もの、46度のシングル・カスク。
 スプリングバンク蒸留所はアイラ産のピートを用いる。麦芽香とポワール香、ほのかに甘草とマッシュの青臭い香り、クリーミーなピート香に菫のキャラクター。加えるにいまひとつの個性“Briny”(塩辛い)。スプリングバンク本来のオイリーかつシャープなテキスチャーが味わえます。予想外の甘味を伴ったアフター。

ロングロウ(10年)※ キャンベルタウン

 スプリングバンクのセカンドラベルにしてオーク・カスクの46度。98年のボトリング。
 特質は麦芽の乾燥にピートのみを用いる点。スプリングバンクの6時間に対して、55時間もピートを焚くといわれる。
 湿った草や土の匂い、微かにシェリーの甘味、長くピーティーなフィニッシュ。塩辛く、口腔が沸き立つようなオイリーなあとくち。通好みのヘビーなモルト。
 1973年から74年にかけて蒸留、85年より発売。ブランドはスプリングバンク蒸留所に隣接していた蒸留所の名。同蒸留所は1896年に閉鎖され、現在ではスプリングバンク蒸留所の瓶詰工場になっている。
 90年以降、年毎の生産量は増え、2000年からは定期的にボトリング。91年からはヴィンテージが記載されるようになった。しかるにヴィンテージは92年で終了、以降はオーク・カスクとシェリー・カスクのヴァテッド・モルトに統一された。

カードゥ(12年)※ スペイサイド

 ジョニー・ウォーカーのメイン原酒にして、40度のディスティラリー・ボトル。
 ライトタイプで甘い口当たりだが、フィニッシュは結構スパイシー。ローランドのグレンキンチーと共に、入門編として最適。

ベンリネス('88 ゴードン&マクファイル)スペイサイド

 ゴードン&マクファイル社のコニッサーズ・チョイスの一本。9年もの、40度。
 糖蜜やカラメルのヘビーな香り、厚みのある優れた食後酒。クロフォードの原酒モルトだが、ブレンドされた製品とは異なり、すこぶる辛口に仕上がっている。
 ウォッシュ(もろみ)の一部を3回蒸留するのが、ベンリネスの特徴。大半は2回蒸留だが、それに3回蒸留を施したものを加えることによって、よりライトタイプのモルトになるという。ドライだが、ボディが厚く、リッチなフィニッシュ。
 ハート・ブラザーズ社、ヴィンテージ・モルト社、ブラックアダー社などから加水タイプのボトルが頒布されている。ダグラス・レイン社、ブラックアダー社、ボトラーズ社、イアン・マキロップ社、ユナイテッド・ディスティラーズ社のレアモルトからカスク・ストレングスが頒布されている。

ロッホデュー(10年)※ スペイサイド

 40度のディスティラリー・エディション。
 マノックモア蒸留所のブラックウィスキー、内側を極端に焦がしたオーク樽を熟成に用いる。ナッツの香りと太いボディ。滑らかにして濃厚な飲み口と口腔に残る苦みが特徴。他にアメリカ向けの8年ものが有るが、こちらはフィニッシュが堅く、お薦めにあらず。

ロングモーン('90 ドナート)スペイサイド

 ダン・イーディアンの一本。シェリー・カスクの10年もの、46度。415本のリミテッド・エディション。
 グレン・グラント、グレンリヴェット同様、シーグラム社の傘下に入り、クィーン・アンやサムシング・スペシャルの原酒モルトになったが、前二者とは異なり、豊かな個性、即ち伝統を固持している。一癖も二癖もある香りとスパイシーなフィニッシュ。食前酒として右に出るものなし。
 バニラやレーズン、ラム酒を想わせる華やかな香り。ドライでスパイシー、かつ拡がりのある味わい。喉ごしは滑らかだが、舌先にごく僅かな渋味が残る。けだし、ディスティラリー・エディションと比して、キリキリと咽を刺すようなフィニッシュはこちらの方が強烈。秀でた食前酒であり、エルギン地区を代表する佳酒。マッカランやグレンファークラスと並ぶトップ・ドレッシングのひとつとして、厚い信頼をブレンダーから受けている。ベンリアックの兄貴分に当たる蒸留所。
 アベラワーやグレンアラヒ、もしくはモートラックやリンクウッドはモルト・ウィスキーの優等生。今一歩の刺激をという方には、ピティヴェアックやロングモーンがお薦め。

グレンゴイン(17年)※ ハイランド

 43度のディスティラリー・ボトル。
 オークニーのスキャパと共にまったくピートを焚き込まない上品なモルト。理由は水源にピートが不足していること、もしくは麦芽の持つ風味を純粋に楽しまんがため。ラングス、フェイマス・グラウスの原酒モルト。
 淡く甘いバニラ香とややフルーティな香り。トフィーやバターを想わせる滑らかな舌触り。さしたる特徴を持たず、ボディが比較的軽めに仕上がっているので水割りに適し、和食、とりわけ刺身等と相性がよい。ちなみに和食と相性がよいのはグレンゴインとプルトニーとされるが、アイラ島をはじめ、スコットランド北部は海産物の宝庫。蟹、海老、魚とモルト・ウィスキーが合うのは当然である。

ブローラ('82 ゴードン&マクファイル)ハイランド

 コニッサーズ・チョイスの17年もの、40度。
 1967〜8年に築かれた蒸留所がクライヌリッシュを名乗り、それまでの古い蒸留所がブローラと改名。ただし、83年5月に操業停止。現在、跡地はクライヌリッシュの熟成庫とヴィジター・センターになっている。
 アイラのポート・エレン、ローランドのセント・マグデラン同様、ストックが尽きた段階で飲めなくなるモルト。煤の臭い、焦げたオークのスモーキーなキャラクター、ナッツのオイリーな風味と熟した果実の甘さ、噛み応えのあるタンニンを伴うスパイシーなフィニッシュ。クライヌリッシュと比してドライ、また極めてスモーキー。強烈な個性を味わえるのは今を除いてない。

グレンタレット('90 イアン・マクロード)ハイランド

 チーフテンズの一本。ポート・フィニッシュの11年もの、43度。1236本のリミテッド・エディション。
 創業は1775年、一時閉鎖されていたが、1959年に再開。リトルミル(1772)、ボウモア(1779)、グレンギリー(1785)、ストラスアイラ(1786)等と共にスコットランド最古の蒸留所。小さな蒸留所で大半をシングル・モルトとして出荷、ユニークなラインナップを揃えている。5000日と10000日熟成のミニチュア・ボトルを頒しているのは愉快。全体に印象の薄いウィスキーだが、15年もののカスク・ストレングス(黒いボトル)は美味とされる。

 ポット・スティルは2基でサイズも小さく、常に高品質のモルトを生産している。本品の特徴はカスク由来の甘味と焼け焦げたような香ばしさ、完熟フルーツの香りが顕著。

リトルミル('84 イアン・マクロード)ローランド

 チーフテンズの一本。ラム・フィニッシュの18年もの、46度。2樽720本のリミテッド・エディション。
 「濡れたダンボールの匂い」で識られるオールド・ファッションのモルトだったが1995年に閉鎖、いずれは記憶の彼方に。ハイランド・ミストの主要モルト。
 黴臭く、樽臭く、安価な白ワインの味わい。掛け値なしにユニーク。侘びしさを噛み締めるときに最適。ただし、本品はカスク由来の香りによって「濡れたダンボール」と称される黴臭さは消えている。消えるどころか、すこぶる美味なウィスキーに変化。樽がもたらすマジックに驚かされます。