●ですぺらモルト会十二月

 

ハイランド・パーク(8年 ゴードン&マクファイル)アイランズ

 マクファイルズ・コレクションの一本。シェリー・カスクの40度。
 北緯59度、オークニーの荒々しい自然のなかに蒸留所はある。「北の巨人」と謳われるオールラウンダーの食後酒。ヘザーハニーの香り、少々塩辛く微かにドライな味わいだが、加水すると甘口に変化する。豊かでビッグなフィニッシュ。

グレン・グラント('76 ウイルソン&モーガン)スペイサイド

 バレル・セレクションの一本。21年もの、46度。
 グレンフィディックに次いで、シングル・モルト部門で世界第2位の売上げを誇る。ライト・ボディ、加水するとアルコール臭が鼻をつく。モルト風味のウィスキーとして、グレンフィディックと双璧をなす。しかし、さすがに21年ものともなればアルコール臭は消え、ザ・グレート・モルトに相応しいふくよかな甘味と熟成香が感じられる。アイラ・モルトと異なり、正統派ウィスキーはコニャック同様、若飲みには適さない。また、グレン・グラントはカスクへの順応性が高く、カスクの違いを楽しむことができるのは大きな魅力。

グレンバーギ('88 グレン・アラン)スペイサイド

 11年もの、43度。
 シングル・モルトとしての出荷は限られ、ゴードン&マクファイル社のボトルが出回るまでは5年ものをたまに見掛ける程度だった。
 ラム・レーズンやバニラの膨よかな香り、芳しくも洗練された味わいは、さすがバランタインの原酒。同時頒布にアルタナベーン10年があり、シーバスとバランタインの原種モルトを並べて味わうことが可能になった。ゴードン&マクファイル社の8年ものと比してアフター・テイストに若干の雑味あり。

グレンクレイグ('75 ゴードン&マクファイル)スペイサイド

 コニッサーズ・チョイスの一本。24年もの、40度。
 ミルトンダフ蒸留所がローモンド・スティルを導入してモストウィーを蒸留していたのと同様、グレンバーギ蒸留所は一時期ローモンド・スティルによる別種のモルト、グレンクレイグを醸していた。よりヘビーにしてオイリーな味わいが特徴。
上記グレンバーギと共にディスティラリー・エディションはほとんど販売されたことがなく、独立瓶詰業者のボトルのみ入手可能。

グレンロッシー('89 ダグラス・マクギボン)スペイサイド

 プロヴァナンスの一本。10年もの、43度。
 プロヴァナンスとはグラスゴーのインデペンデント・ボトラー、ダグラス・マクギボン社のコレクションの総称。ヘイグとディンプルの重要な原酒モルトで、ブレンダーの間でも高い評価を受ける。極めて入手困難なモルトであったが、近年、ユナイテッド・ディスティラーズ社の花と動物シリーズが出回るようになった。
 糖蜜と干し草の匂い。ミント香とクリーミーなピート香、すがすがしい白檀の香りが特徴。加水すると乾いた味わいに変化する。フレッシュでドライな喉ごし、麦芽とシェリー香のアクセントを得て、フィニッシュは徐々にスパイシーに。スパイシーなフィニッシュを愉しまれる方にはニートがお薦め。
 ディスティラリー・ボトルと比して円熟度高く、よりスイートな味わい。重厚な香りと切れ上がりの暖かさが絶妙。リンクウッドやロイヤル・ロッホナガーと共にソフィスティケーテッドなウィスキーとして識られる。
 インタートレード社、ゴードン&マクファイル社、シグナトリー社、ヴィンテージ・モルト社、ブラックアダー社、イアン・マクロード社から各種加水タイプのボトルが、アデルフィ社、ダグラス・レイン社、イアン・マキロップ社からはカスク・ストレングスが頒布されている。

ダフタウン('90 ダグラス・マクギボン)スペイサイド

 プロヴァナンスの一本。10年もの、43度。
 軽くドライで食前酒向きだが、ベクトルが定めなく稀薄、総体として纏まりに欠ける。香りも淋しく、概して過大評価。おなじ飲むなら、兄弟蒸留所のピティヴェアックのほうが美味。ベルの原酒モルト。
 蜂蜜、バター・キャラメル、クッキーのような柔らかく甘い香り。ただし口に含めば、さらさらと流れるが如き辛口。こくのなさが淋しく、いささか物足りない思いに。フィニッシュは軽く短く、舌先に苦みが残る。

エドラダワ−('76 シグナトリー)ハイランド

 オーク・カスクの23年もの、53.1度のカスク・ストレングス。限定260本のシングル・カスク。  高品質のバターが舌先でとろけるような、長く濃密なフィニッシュ。美味。
 アベラワー、グレンアラヒと共に仏蘭西のペルノ・リカール社が所有していたが、2002年にシグナトリー社が買収。
 出荷量は年間2000ケース、スコットランドでもっとも小さい蒸留所。最後のハンドクラフト・ウィスキーと称され、根強いファンを持つ。ハウス・オブ・ローズの主要モルト。薫雲やコスメティックの複雑な香気。クリーミーなキャラメルとカステラの焦げ目、むせかえるが如き甘味。華麗にして艶やかな味わい。フィニッシュは蜂蜜のように濃厚、とろけそうな舌触りが間断なく続く。

グレンアギー('67 ゴードン&マクファイル)ハイランド

 コニッサーズ・チョイスの27年もの、40度。
 スコットランド最東端に位置する蒸留所。ディスティラリー・エディションは一度も頒布されないまま、1982年に閉鎖。一部の設備は取り壊され、再開の見込みは全くない。
 ポマードのような香りと苦みを伴う濃厚な味わい。ボウモアのようなコスメティックとはちょいと異なり、男性の整髪料、競馬チックもしくはふけの臭いを想起させる。飲む人によって大きく好みが分かれる。

ノックドゥー('89 ケイデンヘッド)ハイランド

 オーセンティック・コレクションの一本。バーボン・ホグスヘッドの10年もの、56.0度のカスク・ストレングス。限定306 本のシングル・カスク。
 ヘイグのキー・モルトとして、またインヴァー・ハウスの主要モルトとして識られる。ディスティラリー・ボトルのブランドは「アン・ノック」だが、「ノックドゥー」とは味わいガ異なる。アン・ノックは麦芽の風味と微かなスモーキー・フレーバーを持つフレッシュなキャラクターが売りだが、ノックドゥーは完熟林檎や西洋梨、スコッチ・バターの艶のある香りなど、遙かに濃厚でパワフル。香味に求心力がありベクトルも強く、クリーミーなラスト・ノートを堪能できる。
 アデルフィ社とケイデンヘッド社のカスク・ストレングスの他、ディスティラリー・ボトルで21年と23年ものカスク・ストレングスが限定頒布されている。共に傑出したボトルである。

プルトニー('90 ヴァン・ウィー)ハイランド

 アルティメットの一本。バーボン・バレルの12年もの、43度のシングル・カスク。
 大ブリテン島の北の端、北海に面した港町ウィックの蒸留所。ウィックの町からはロバート・スチーブンソンが生まれている。「ジキル博士とハイド氏」や「宝島」で識られる作家である。バランタインの主要モルトのため、ゴードン&マクファイル社の8年、15年ものが僅かに出回るのみだったが、95年にディスティラリー・エディションを発売。
 海風や磯の香、魚介や海藻の潮味等、塩辛さが織りなす極めてシンプルな辛口。雑味がなく、厚みのあるボディなので湯割りでも可。造りから鍋物までひろく和食全般に適す。本品は極めつけの大辛、それも粗塩ではなく、精製された食卓塩の塩っぱさ。