パイプはもともと杢目の美しさを愛でるもの。木目は年輪、杢目は模様、杢目にも中杢、玉杢、笹杢、縮み杢、虎杢、蟹杢といろいろあるようだが、パイプの場合は縦方向に綺麗な柾目が出ているものをストレートグレイン、ストレートグレインの切断面に現れる小さな渦巻き状の木目が出ているものをバーズアイ、揺らぐ炎のような柾目が出ているものをフレームグレイン、円周方向に柾目が出ているものをリンググレイン、ストレートグレインとバーズアイを組み合わせた左右非対称のものをクロスグレイン、模様がねじれたりオバケまたはボウズという木目のない部分があったりするもの、要するに大半のパイプはミックスドグレインと称する。ダンヒルのような数十万円、時に数百万円する超高級品は特に木理が細かく等間隔に詰まっっている。
ダンヒル社製のパイプは100 のうち2~3個しか穫れない無傷の素材のみを使うと云われる。では他の97個の素材はどこへ行くのかと気になる。前述したオックスフォードのようなセカンドラインのパイプは、モルトウイスキーの樽同様、廃品利用といえなくもない。それでも疵が残る場合はサンドブラストやラスティック仕上げのパイプに化ける。スムースなパイプに杢目の美しさがあるように、サンドブラストのパイプには疵物ゆえの暗さ、世捨て人のような佇まいがある。疵者のわたしにこそ相応しいと云えようか。